第11章
第30話
盆休みの初日、陸斗は青井家に引っ越してきた。
ギラギラした太陽が照りつける中、運送屋のトラックから 陸斗の荷物が青井家の家の中へと、さっさか さっさか運び込まれていく。
陸斗も汗だくになりながら、運送屋のスタッフらが運んでくる段ボール箱を見ては、
「それはここに」 「これはあそこに」
と指示を出しながら、手際良く片付けていた。
2階の空いていた洋室が夫婦の寝室だ。
瀬里香が部屋に入って来た。
「ねぇ、私も何か手伝うことない?」
「瀬里香はいいよ。今 あんま体調良くないんだし。 ゆっくりしてなよ」
そう言って ハンカチで汗を拭う陸斗。
「今日は体調がいいから、大丈夫だよ」
と、瀬里香がにっこり笑った。
「じゃあ…これ、キッチンに持って行って貰おうかな」
陸斗が足元に置いてある小箱を手に取り、瀬里香に渡した。
ガムテープで留めていなくて 蓋が開いている。
瀬里香は受け取って 中を見た。
「わあ!これ」
付き合っていた頃に、2人で買ったお揃いのマグカップ。
陸斗のマンションに置いてあった。
初めて会った日、陸斗と一緒に入ったカフェで
2人で飲んだ温かいカフェ・オ・レがおいしくて
私はそれからカフェ・オ・レが大好きになった。
陸斗のマンションに行った時は、2人で買った
このマグカップで いつもカフェ・オ・レを飲んでたんだ。
「これからは、この家で 一緒に飲めるね」
「うん」
陸斗は優しい目をして頷いた。
「じゃ、持ってくね!」
瀬里香は楽しそうに 小箱を持って部屋を出た。
陸斗は、ふと緑のことを思い出した。
帝王病院を去る日、看護師長から花束を受け取った。
「香坂先生、お疲れ様でした。青井クリニックでも 益々のご活躍を!」
「ありがとうございます」
消化器外科の仲間達が温かく見守る中、緑はいちばん後ろの方で立っていた。
ずっと、目線を下に落としたまま…
俺とは…もう終わりにするつもりなのかな。
「これはどちらに?」
運送スタッフの声で、陸斗は我に返った。
「あ、取り敢えず…そこ置いといてください」
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