第29話
探偵事務所を出た緑は歩きながら、ふと思いついたように立ち止まった。
バッグからスマホを取り出し、登録しておいた藤川の携帯番号を押す。
『はい、藤川探偵事務所です』 藤川が出た。
「すみません、陣ノですが」
『・・はい』
「入手した情報なんですが、連絡いただけましたら私が事務所に伺いますので。
私の家には、郵送とか・・しないで貰いたいのです」
『わかりました』
通話を終えると、緑は早足で歩き出した。
瀬里香はベッドに横になっていた。
胸、ムカムカする。 食欲ナイ。 うつうつする。
これが言うところの、マタニティ・ブルーってやつなのかなぁ・・
それとも・・・・
スマホが鳴った。 久々に陸斗からだ。
「はい」
『・・どうした。元気のない声だな』
「悪阻が始まったみたい。いっつも気持ち悪い」
『大丈夫か? 何か買って持って行こうか?』
「いい。食欲も、あんまりないの。・・なんか、用だった?」
『あ、部屋さ、大体片付いたよ。次の休みくらいには引っ越せそうだなって、伝えようと思って』
「そうなんだ。わかった、親にも言っとくね」
ヤバイ、また気持ち悪くなってきた。 私は枕元に置いたタオルを口に当てた。
「ごめん、陸斗。またヤバそうだから、もう切るね」
『あ、うん。 ムリするなよ。なんかあったらいつでも電話して・・」
言い終わらない内に電話が切れた。 陸斗は唖然としている。
(なんか・・瀬里香らしくなかったな。・・・・そっか、悪阻で辛いんだな。バカだな俺。やましいことしてっから、考え過ぎちゃったよ)
ククッと笑いを噛みしめながら、陸斗は広くなった部屋を見回した。
(色々あったな、ここも。でももうすぐ、今度は俺の、次の人生が始まる場所へ移るんだ)
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