第28話

ー藤川探偵事務所ー


探偵の藤川 浩次ふじかわ こうじが名刺を渡すと、

「どうぞ お座りください」

と緑に向かいの椅子を手差しした。


浮かぬ表情の緑は椅子に座ると、落ち着かない様子で辺りを見回す。



「それで、今回どの様なご用件で?」

藤川は淡々とした口調で緑に尋ねた。



「はい、あの……青井クリニックをご存知でしょうか」


「ええ、知ってますよ」


「その青井クリニックについて…色々と調べて貰いたいんです」



緑の要望に藤川は些か不思議そうな顔をし、

「色々調べる…というのは、例えば どの様なことを中心に調べればいいのでしょうか?」

と再び聞き返した。



緑は戸惑った。 自分でもよくわからない。


「例えば、青井家の家族…そう、家族についてです。青井クリニックの院長には1人娘がいる筈です。そのお嬢さんはどういう人で、どういった経歴をもつ人なのか。…近く、婿養子を迎えると聞きました。そこに至るまでの経緯を詳しく調べて貰いたいんです。あ、出来れば…その、婿養子になる人のことも…わかれば…」


藤川は緑の話を聞いた後、複雑な表情で椅子の背に体をくっ付けた。


「ふむ…珍しい話ですね。青井クリニックについてと言うよりは、院長の家族について…特にそこの娘さんに対して、何か 私情が絡んだ訳でもあるというのが、今回依頼された理由なのでしょうかね」



藤川の言葉に、緑は思わず顔を顰めた。



「まあいいでしょう。その辺りの個人的な感情については触れないでおきます。取り敢えず、青井クリニック 院長の娘さんについて、先ずは探れる範囲で調べさせていただくとしますね」



「よろしくお願いします」


緑は意を固め 凛とした態度で藤川に依頼した。

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