第26話

緑は母の富枝とみえと2人で木造建ての小さな家に住んでいた。



台所にあるテーブルを挟み、緑と富枝は向かい合って夕食を食べている。


「緑…最近、何か嫌なことでもあった?」



唐突に、まるで心の中を見抜いたような富枝の言葉に 緑は驚く。


「えっ、どうして?」


悟られまいとするものの、緑は動揺を隠しきれずにいた。



「なんとなく、よ。54にもなればね、年の功と、31年も親子でいたら 勘でわかるのよ。

…何かあるんだったら、お母さんにくらいは愚痴りなさい。

あんたは全部1人で抱え込む癖があるから」



緑はバツが悪かった。

だが何となく 母には聞いて貰いたい気もした。



「妙な男に騙された…なんて話以外なら 娘のためなら、お母さんは何だって力になるわよ」



やはり言えない… 緑はそう思った。




緑はどうしても知りたかった。


陸斗の妻が、どんな女性なのか…


青井クリニックの背景も。



騙されていたと知り 許せない筈なのに、

こんなになっても まだ陸斗に執着している自分が、緑は情けなかった。


でも…陸斗のあの、引き込まれるような目。

どこか淋しげな雰囲気。

穏やかに話しかける優しい声。


気が付けば 陸斗の全てが好きになっていた。

もう理性では抑えきれない程に。

だから、もっと知りたいと思った。



緑は部屋の机の上に置いたパソコンを開いた。

緑の白くて細い指が、【探偵】という文字を打っていた。

(何をしてるんだろう…私)

そう思いながらも、検索して次々と出てくる文字を 緑は必死に目で追った。


ふと、緑の指が止まった。


【藤川探偵事務所】



(ここ、うちから近いわ…)

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