第9章

第24話

陸斗は思わず後退りした。



「よくも騙したわね!」


開口1番、緑は陸斗を怒鳴りつけた。




「ちょっ… と、とにかく 中へ入って…」


陸斗はオドオドしながらドアを広げ、遠慮がちに緑の背中を押し 部屋の中へいざなった。



「触らないで!!」


緑は陸斗の手を振り払うと荒々しく靴を脱ぎ 、リビングへ入って行った。


肩に掛けていたショルダーバッグを投げる様にソファに置くと 緑は振り向き、陸斗を睨んだ。



「結婚してるって、どういうこと!?」



緑の言葉に陸斗は耳を疑った。



小島には口止めをしていた筈だ。

敢えて小島が緑にバラすとは考えにくい。


だとすれば、なぜ緑はそれを知ったのだろう。



「誰がそんなことを言ったの?」



「そんなのどうでもいい! なぜあなたは嘘をついたの? いかにも私を好きだったみたいな言い方をして。結局遊びたかっただけじゃない!」



「違う! 緑のことは本気で好きなんだ。

それはほんとだ、信じて」


「今更何をどう信じればいいって言うの? あなたがそう言ったから、1度は私も信じて本気で好きになったわ。でも実際あなたには奥さんがいて、そのことを隠してたんだよね。嘘をつかれたのに、そんな人をこの先、信じて愛せると思う? このまま気付かずにいたら 私はどうなってたの? あなたはそれでも平気で続けたでしょうけど…

馬鹿にしないでよ!」


緑の瞳から、涙が止めどなく溢れ出た。



「落ち着けよ」


陸斗は緑を抱き寄せた。



「嫌っ! 帰るから離してっ、… 離してよ!!」


緑は陸斗の腕から逃げようともがく。



「嫌だ、 離さない! 」


陸斗は緑を抱き締める手に力を込めた。



「頼むから、落ち着いてくれ。

落ち着いて 俺の話を聞いてくれないか?」



陸斗はもう、緑には全てを正直に話してもいいと思った。 


緑なら きっとわかってくれると。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る