第22話

「今月末で辞職ということなら、そろそろ引き継ぎをしていかんとな」


消化器外科の先崎せんざき部長が陸斗に声をかけてきた。



「あ、…はい」



「君の後任は今のところ小島くんを、と考えているんだが、それでいいかな」



「はい」


…とは応えたものの、陸斗は心の中で躊躇った。

小島には結婚したことは話しているが、 詳しい事情まではまだ話していない。


小島とは外来でもしょっちゅう顔を合わせているが、病棟にいるスタッフは そもそも陸斗が結婚したことさえ知らない者も多い。


小島は、陸斗の妻が青井外科クリニックの1人娘であるのは知っているが、婿養子に入るということまでは知らない。

野心があっての目論みだと、何気に勘づかれるかもしれない。

しかし陸斗にとって、それはさして問題ではなかった。


問題なのは、緑に知られてしまうことだ。


小島に口止めをするべきか…


いや、それはおかしい。

不思議に思われるだろうし、勘繰られた挙げ句

ヘタすれば緑との不倫がバレる可能性がある。



考えているところへ、丁度小島が診察室に入ってきた。


「小島先生」


すかさず陸斗が小島を呼び止めた。



「はい」


小島がレントゲンの入った封書を手に持つと、陸斗に顔を向ける。



「俺、今月末で帝王病院を退職するんだよ」



「えっ、そうなんですか?」



「急で申し訳ないんだけど、その後のことを君に任せたいんだよね」



「ええっ、僕で大丈夫なんですかね。…けど、何でまた退職なんですか?」



「それについて引き継ぎの話も含め、ちょっと話したいことがあるんだけど…

午後から少し、時間とれる?」



「ああ、はい。 いいですよ」



「2時頃、第1会議室で待ってるから」



「わかりました」




こうなれば 嘘に嘘を重ねていくしかないと、

陸斗は思った。

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