第20話

「おまえ、医大は諦めろよ。それでなくとも うちにはそんな金はねぇんだから」


陸斗が弟の香坂 徹こうさか とおるに言った。



「金のことなら気にせんでいい。なんとかなるさ。進路くらい、徹に自由に決めさせてやれ。成績も優秀なんだし…なんなら陸斗より徹のほうが上かもしれんぞ。担任も言ってた。徹の成績なら、国立大の医学部も充分狙えるって」


鉄板の上で手際よくお好み焼きを返しながら、父の香坂 光洋こうさか みつひろが言う。



陸斗は舌打ちし、

「俺だって国立大へ行くつもりにしてるよ! けど2人も医大へ行ったら、家が潰れちまうぞ」

と やけになって言い返した。



「俺、医大に行くつもりはないよ」

さっきまで黙って聞いていた徹がそう言った。


「大学には行かない。高校出たら、店手伝うよ。だから兄貴は気にせず 医者になってよ」


陸斗はなんだかバツが悪くなり、黙り込んだ。




「嘘つき!」



その声に驚いて陸斗が振り向くと、店のテーブルに瀬里香が座っていた。



「ほんと、サイテー」



瀬里香の向かい側にはどういうことか、緑が座っている。


2人共、軽蔑した眼差しで陸斗を見ている。



「な、なんで? …えっ、どういうこと!?」


陸斗は慌てふためいた。




そこでハッと目が覚めた。


(なんだ 夢か…クソッ、後味の悪い夢だな)


陸斗の額は汗まみれになっていた。



ふと横を見ると、緑はいなかった。


(帰ったのか。 ハアッ、夢でよかった)



陸斗は少しの間ぼんやりしていたが、思いついたように起き上がり、スマホを手に取った。



そして、実家に電話をかけた。

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