第19話

ー青井家ー


「お母さん、それの作り方教えて」


キッチンでビーフストロガノフの食材を下ごしらえしている美愛子の手元を瀬里香が覗き込んで言った。



「いいわよ。でも、結構手間がかかるわよ」


「いいの。だって お母さんが作るビーフストロガノフ、凄くおいしいんだもん。小さい時から大好きだった。陸斗と住み始めたら、彼に作ってあげたいの。私の秘伝の味にしたいからさ」


「瀬里香は旦那さんによく尽くす、良い奥さんになりそうね」


「彼も頑張ってるんだもん。おいしい料理と綺麗な部屋で、快適に過ごさせてあげたいの」



美愛子は微笑ましげに頷いた。



リビングのドアが開き、勇次郎が入ってきた。



「おはよう、お父さん」


「おはよう。今朝もいい匂いがしてるな」


「今日のお昼ご飯、お母さんに教えてもらいながらだけど、私の手料理よ。期待しててね」



「それはそうと、陸斗君から返事は貰えたかな? 彼の父親に会わせてほしいんだが…」


勇次郎はそう言いながらソファに腰を下ろし、新聞を広げた。



「あー、その話ね。彼には伝えた。近いうちに連絡取るって言ってたけど、なんだか忙しそうだしね。あんまり急かすのも悪いかなって」



「出来れば盆休みくらいには会いたいんだがね。陸斗君も忙しいし、彼の父親も忙しいかもしれんが、わしもその辺りくらいしか、時間が取れんからな」



「そうだね。もう1度陸斗に言ってみるね」



瀬里香はそう言って、牛肉に包丁を入れた。

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