第6章

第15話

「せ、瀬里香こそ どうしたんだよ、突然」


「昨夜何度か電話したのに、出なかったから」


「あ、ああ…急に当直になったんだ。昨夜当直だった小島って医者が都合悪くなって、それで俺が代わりに…」



「中に入っていい?」



「あ、うん」



動揺を隠せない陸斗をよそに、瀬里香は部屋の中へと入って行った。




「陸斗が電話に出ないなんて珍しいから、体調でも悪くなったのかなって心配しちゃった」


瀬里香がソファに目をやると、陸斗は慌ててクッションを立て直した。



「あ、座って」


陸斗が言うと 瀬里香はソファに腰を下ろした。



「なんか飲む?」



「いらない」


と言いながら、瀬里香は部屋の中を見回した。



「ごめんな、電話に出られなくて。当直って、先に言っとけばよかったな」



「別にいいよ。急に決まったんでしょ? よくあることってお母さんも言ってた。それより…」



「何?」


陸斗の動揺が最高潮に達した。




「あんまり荷物、まとめてないね。引っ越す前の部屋とは思えないくらいきれい」



陸斗はホッと胸を撫で下ろした。


「何だかんだ忙しくてさ、中々手がつけられないんだ。あ、でも一応頭の中では整理してるよ。どこから片付けていくとか。それよか昨夜から電話くれてたって…何か急用だったの?」



「陸斗は、何でさっきから突っ立ってんの?」




陸斗は慌てて瀬里香の隣りに腰を下ろした。


(動揺をわからせちゃ駄目だ。落ち着け)

と、自分に言い聞かせながら。



陸斗は腕を回して瀬里香の肩を抱き、自分の体に引き寄せると 瀬里香の髪を撫でた。


「あんまり色々心配するなよ。お腹の子に悪いぞ。俺達は結婚したんだ。もうすぐ同じ屋根の下で暮らせる。そしたら、みんな家族になるんだから」



「それなんだけどさ。お父さんとお母さん、陸斗のお父さんに会いたいって言ってるの」




陸斗の顔から笑顔が消えた。


「わかった…近いうちに連絡してみるよ」



「陸斗…」


瀬里香は陸斗の肩に両腕を絡め、抱きついた。



陸斗はその腕を優しく解き、


「今日はやめとこうな。今、大事な時だから」


そう言って陸斗は片手で瀬里香の前髪を上げ、瀬里香の額にキスをした。

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