第14話

タワーマンションの21階。



陸斗の部屋の玄関が開き、緑が陸斗の体を半分支えるようにしてリビングに入った。


「そこのソファに寝転がるよ」


長めのソファに傾れ込むようにして陸斗が横になるのを、緑が介添えした。



「ありがとう…助かったよ。悪かったね、部屋まで連れてきてもらって」


ソファに寝たまま、陸斗は緑の瞳を真っ直ぐ見て言った。



「お熱とかは、ないんでしょうか」


陸斗の額に当てようとした緑の手の上に、陸斗が自分の手を重ねた。


「熱はないと思うよ。多分、疲れだよ」


陸斗は澄んだ瞳で緑をじっと見つめて言った。



緑は焦って思わず陸斗の額から手を外し、


「じ、じゃあ私…そろそろ失礼しますね」


と、側に置いた鞄を持ち そそくさと立ち上がった。




「ありがとう、気をつけてね。…お疲れさま」



「先生も、ゆっくり休んでくださいね。

 それじゃ」


そう言うと、緑は足早に部屋から出て行った。




(とっかかりはこれでいい。手応えはあったぞ)


陸斗は満足気な笑みを浮かべた。





エレベーターの中で、緑は動揺していた。

ドキドキしている胸に、思わず手をやる。


(何なの、私。なぜこんなに胸がざわつくの? あの時 私はきっと、顔が赤くなってた)


何度振り払おうとしても、緑の頭の中で さっきの陸斗のじっと見つめる瞳が焼き付いて離れない。

(誰にでも…)と思っていた気持ちが徐々に薄れていくのを、緑は感じていた。




1階に着きエレベーターが開くと、扉の前に瀬里香が立っていた。


瀬里香に軽くお辞儀をしてエレベーターから出る緑と引き換えに、瀬里香がエレベーターの中に入る。




ウトウト眠りかけた陸斗の耳にインターホンの鳴る音が聞こえ、陸斗は目を覚ました。


面倒臭げにソファから身を起こすと 陸斗は玄関へと歩いて行った。



玄関のドアを開けると瀬里香が立っていて、 陸斗は驚いたと同時に焦った。




「えっ?! どうしているの?」

何も知らない瀬里香が不思議そうな顔をした。

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