第10話

「すみません、ありがとうございました」


病室のドアを閉めると、緑は陸斗に礼を言った。



「いや、大丈夫だった?」


「はい」


「夜間はこんなことも多いから、気をつけてね」




陸斗と緑がナースステーションに戻ると、小沢と滝田が心配そうな顔で尋ねた。


「大丈夫だったんですか?」


「井上さん、何て言って暴れてたの?」



手術オペの直後は何かと情緒が不安定になってますから。でも、大丈夫ですよ。ちゃんと宥めてきましたから」


陸斗が小沢らに説明すると、




「先生がいてくれてよかったわ。私達だけじゃ、まともに話も聞いてくれないもの」


「女だけだと、舐められちゃうのかしらね」


と小沢と瀧田が口々に言った。




陸斗は爽やかに微笑みながら、心で呟いた。

(ふん、ただ行きたくないだけじゃねぇか)




違う病室から、またナースコールが鳴った。


「武藤のお婆ちゃんだな。体が痒いから、また軟膏出してくれって言うのかな? 処方しないといけないかもしれないから、僕が行きますね」



そう言いながら出て行く陸斗の後ろ姿を 緑はぼんやり見つめていたが、直ぐに用事を始めた。


(誰にでも優しいのよ。特別なことじゃない)


緑はそう自分に言い聞かせると、ほんの一瞬でも 陸斗を素敵だと感じた心に蓋をした。

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