第4章

第9話

陸斗が8012号室のドアをノックして病室に入ると、ベッドの上で 何やら井上が喚いているのを

緑が必死に宥めていた。



「どうされましたか? 井上さん」


陸斗は井上の側まで行くと、

『俺がやるよ』と言うように、緑に片手を上げて合図した。




「なんだ先生、いたのかい」


陸斗を見て、井上は急におとなしくなった。




「いますよ。小島先生の都合で交代したので。なので、今夜は僕が当直です」


そう言うと、陸斗は穏やかな笑みを浮かべた。




「夜は嫌いだ。病院の中もひっそりしていて、わしの部屋にも 誰もあまり入って来ん。

手術してまだ間がないのに…急に容体が悪くなったら、どうするつもりなのかと思ってな」


井上は人が変わったように、今度は弱々しい口調で陸斗に愚痴をこぼした。



陸斗と緑は思わず顔を見合わせた。



そして、陸斗は優しく諭すように井上に言った。


「病院の夜は長いですよね。わかります。

でも大丈夫、僕らがいますから。

何かあったら いつでも駆けつけますよ。

だから安心してください。

手術の経過も順調なので 心配ないです。

今はゆっくりと体を休めましょう」




「年のせいか、年々臆病になってしまってのぅ。つい、看護師さんに八つ当たりしてしまうんじゃ」


井上が申し訳なさそうに緑を見ると、緑は笑いながら首を横に振った。




陸斗は緑を見ながら、

「看護師さん達も、たくさんの患者さんを看ていてお忙しいので頻繁には井上さんのお部屋に来られないかもしれませんが、ちゃんと気に留めてくれているので どうか心配なさらずに」


と井上に言った。




「ああ、忙しいのに…悪かったのぅ」


そう言うと 井上は両目を閉じた。



緑が井上の体にそっと布団を被せる。




「じゃあ、おやすみなさい」


陸斗はそう言うと、緑に目配せをした。



陸斗と緑は静かに井上の病室から出た。

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