第8話

陸斗は緑の後ろ姿を見つめていた。


(陣ノ緑は まさしく俺のタイプ。美人でクールで、どこか神秘的。仕事もテキパキ熟すし、しっかりしている。お嬢さん育ちで甘ったれの瀬里香とは大違いだ)


無意識に陸斗の口元が綻ぶ。


(ああいう女の、ベッドでの顔が見てみたい…)




わあああーー!!



男の叫び声で、陸斗は現実に引き戻された。




「何?」


瀧田が廊下の方を見る。



「ナースコール鳴ったの、8012号室だったわね。その辺りから聞こえた気がしたけど…」


小沢が行きかけたその時、



「危ないので 僕が行きますよ。ちょっと様子を見てきます」


陸斗は椅子から立ち上がると ナースステーションを出て行った。






その頃青井家では…


風呂上がりの瀬里香が 濡れ髪をタオルに擦り付けながらキッチンの冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出してキャップを外し ゴクゴク音を立てて飲んだ。




「瀬里香、近い内に陸斗さんのお父様にお会いしたいって さっきお父さんと話してたんだけど…どうかしら?」


側にいた美愛子が瀬里香に尋ねる。




「プファーッ、おいしい! 生き返ったぁ」


瀬里香はキャップを閉めてボトルを冷蔵庫に戻すと、


「ん、わかった。陸斗に聞いてみるね。

えーっと、今日は当直ではなかった筈だから」


と言いながらリビングのソファに腰を下ろし、スマホから陸斗に電話をした。



トゥルルル…トゥルルル…トゥルルル…



呼び出し音が鳴り続けるが、陸斗は出ない。



「あれっ? おかしいなぁ。いつも早く出るのに」


瀬里香は不思議そうな顔をする。

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