第5話

「どういった話かな?」


父は陸斗の向かい側のソファに、深く体を沈み込ませた。



「あ、はい…」


些か緊張気味の陸斗を見て、私は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。



「子供ができたと瀬里香から知らされました」



父も母も、一瞬 唖然とした表情だったが 、



次の瞬間 父は、


「そうか! よかった。…いや、実にめでたい」


と目を輝かせた。



母も慌てて父の隣に座り、私に尋ねる。


「それで病院で診てもらったのね。…で、今 何ヶ月なの?」




私はハンドバッグの中から診断書を取り出し、広げてテーブルの上に置いた。



「今、4周目だって。

出産予定日は来年の3月14日」



「丁度いい季節だな。……初孫か…わしも63にして、ようやく念願だったお爺ちゃんになるんだな」


しみじみと独り言のように呟く父の顔は、幸せに満ちていた。



「私はお婆ちゃんね! 来年の還暦祝いを先に頂けた気分だわ。今から楽しみよ」


母も浮かれ立った。



「陸斗君、君と出会えて 本当に良かったよ。

うちは1人娘の瀬里香だけだから、この青井外科クリニックも 自分の代だけで閉じることになるだろうと 半ば諦めかけていたんだ。

そんな時に、君のような優秀な外科医が後継してくれると決まって 本当に感謝してる。

どうかよろしく頼むよ」



「いえ、こちらこそです。僕もまだまだ未熟ですが お義父さんが築き上げてこられた青井外科クリニックの繁栄に是非尽力させてください」




平和な光景だ。

私が憧れていた、円満な家庭像そのもの。




「あ、ちょっと すみません」


ふいに陸斗が ズボンのポケットから半分だけスマホを出して見た。



「すみません、病院から呼び出しのメールが入りました。じゃあ僕はそろそろお邪魔します」


そう言って 陸斗はソファから立ち上がった。




「そうか。忙しい合間に わざわざ悪かったな」



「お車の運転には、気をつけてね」




両親と私は、玄関まで陸斗を見送った。



「ありがとうございます、ここで結構です。

じゃあ こちらに引っ越す日が決まりましたら、瀬里香に伝えますので」




「ああ、そうしてくれたまえ」



「じゃ 瀬里香、また連絡するから」



「うん。いってらっしゃい」




爽やかな笑顔で父と母にお辞儀をし、


私には軽く片手を上げ、


陸斗は玄関のドアを開けて出て行った。

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