第7話 妖鬼は人を喰らう ②
「以前除霊した霊魂に関わってた人から、これは霊障じゃないかって言われてそれは霊障じゃないですねって返す仕事」
『それは仕事なのか……?』
「できるのが俺しかいないし、アフターケアだな」
言いながら、体を寄せてくるロウク。
思わず頭を撫でる俺、ロウクは気持ちよさそうに目を細めた。
『貴様、我が来るたびにここで暇そうにしているではないか。本当に儲かっているのか?』
「儲かってるさ。ぶっちゃけ、学生のころから結構偉い人からも依頼を受けて除霊してたりするから貯蓄は多い」
わっしゃわっしゃ。
ロウクを撫でながら、片手でタイピングをしていく。
効率は悪いが、文面を考えながらだとそもそもタイピングは遅くなるしな。
今はロウクをかまっているのもあって、更に効率は悪いけどそんなものである。
『そいつらは、退魔師を頼らんのか』
「地域によるけど、退魔師の存在を知ってる偉い人ってのも、もう随分少なくなってるんだよ。このあたりはリツの影響で退魔師が少ないから知らない人も多い」
そもそも、俺が住んでいる県で大きい退魔師の一族が御鏡くらいなのだ。
それくらいリツの影響は大きいのである。
もちろん、退魔師の影響が強い地域もある。
京都とか東京とか、人の多いところはやっぱり人の手で管理する必要があるからな。
『ふあああ……それで、他にやることはないのか。結局暇なことに変わりはないだろう』
「一日に一人か二人くらいは、近所の人が失せ物探しに来るよ」
『そんなものを霊媒師にさせているのか? 暇なのはそいつらだったか』
気持ちよさそうに撫でられるロウクの、それはもう気持ちいい毛並みを堪能する。
ちなみにどうやって霊媒で失せ物探しをするのかというと、三号霊魂に頼むのだ。
霊魂は物理的な影響を受けず、壁をすり抜けたりできるからな。
失せ物探しには適任というわけだ。
「彼らとの交流も、立派な仕事なんだよ。俺の仕事は、人と関わることだから」
『人と関わる、ふん。つまらんお題目だ』
「ロウクは妖鬼なんだから、それでいいと思うけどね」
わっしゃわっしゃ。
ロウクが少しずつ姿勢を低くしていくので、それに合わせて手も動く。
あ、床に寝転がった。
まぁでかいので、椅子に座ったままでも問題なくなでることができるので問題はない。
「妖鬼っていうのは、人を喰らう存在だ。別に人のことを知る必要はないと思う」
『ごろごろ……貴様に指図されるいわれはない』
「ははは、それもそうだ」
妖鬼、その存在意義は人を恐怖させ喰らうこと。
人が”魔”に対して抱く恐怖――すなわち、畏れを意図的に食べるのが妖鬼という存在だ。
その食べ方は様々で、人を驚かせる無害な唐傘お化けみたいな存在から、ロウクのような人食いの怪物まで様々である。
いや、ロウクを人食いの怪物と呼ぶのはまた違うんだけど。
とにかく、その性質上妖鬼は人類に対して脅威となる存在である。
退魔師は霊魂だけでなく、危険な妖鬼を退魔する必要があるのだ。
これに関しては俺もできることは少ないので、お疲れ様ですって感じだな。
ただ、俺は幼い頃からリツと契約していて、リツの逆鱗に触れることを畏れてか妖鬼が襲いかかってくることもほとんどない。
ロウクくらいだ、俺を喰ってやるとかいい出すのは。
まぁそのロウクも――
『はっ、れ、霊媒師貴様……! いつの間に我をこのような屈辱的な姿に!』
――ひたすら撫でていると、こうやってお腹を見せてくれるのだけど。
しまった、気付かれてしまった。
今日は結構気付くのが早いな、妖鬼との集まりで酒が入っていると言っていたから、多少は酔っ払って気付かないと思ったのに。
『貴様……貴様またこのような! 我に辱めを! 今日という今日は許さんぞ!』
「撫でられながら言うことではない。というか、そういうことはだな――」
『ぐるるるる』
俺は作業の手を止めて、ロウクを撫で回しながら言う。
威嚇のために、俺に牙を向けるロウク。
そんなロウクに俺は――
「一人でも本当に人を喰ってから言おうな」
と、ロウクの弱点を突いた。
『くぅーん』
「おーよしよし」
『わふっ、わふっ』
誤魔化しと、撫でられることの気持ちよさで完全にワンコになるロウク。
俺もロウクを撫でることに夢中になっていた。
『……いや、しかしだな、アレだ、霊媒師』
「おーどうした?」
『くぅーん。そもそも、我以外だってそうだろう。昨今の妖鬼に人を喰ったことのある妖鬼がどれだけいると思っている?』
わしゃわしゃ。
ぶっちゃけ知っているし、この会話もすでに何度かしていることだが、俺は撫でながらロウクの言葉を待った。
『ほぼ零に等しいのだ。今の時代は人間が多すぎる! 人を食えばすぐに噂となり、退魔師の耳に入る』
「そりゃそうだ。それに、人の戸籍管理も昔よりずっとしっかりしてるからな」
『わふわふ。第一、お前が我をこのようにしたのもいかんのだ』
喉を撫で回す。
気がつけばロウクはいつの間にか更に小さくなり、俺が撫でるのに丁度いいサイズになっていた。
『ただの人が、一号妖鬼を懐柔したことで妖鬼達が貴様に震え上がっているのだぞ……!』
「それは、迂闊に懐柔されるロウクに問題があるような……後、自覚あったんだな」
『うるさいぞ! あ、そこいい感じだもっと撫でろ――』
一号妖鬼とは一体……
少なくとも、ロウクに関しては完全にペットみたいな感じになっていた。
最初のアレも、ロウクなりのじゃれ付きってやつだな。
はははういやつめ。
しかしまぁ、出会った当初はもう少し攻撃的だったというのに。
どうしてここまで言葉だけのツンデレになるのか、疑問ではある。
確かにリツ印の護符で、妖鬼や一号霊魂の物理攻撃をシャットアウトできるけど。
それ以外は本当にただ普通に接してるだけなのにな。
不思議だ。
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