第3話 退魔師と霊媒師 ②

「そんなに、俺を身内に取り込みたいかね」

「リツ様が恐ろしいのでしょう、身内にさえ取り込んでしまえばリツ様も受け入れてくださるでしょうから。霊媒師さんが自分で選択したのなら、ですけど」


 リツ、というのはこのあたり一体を”シメ”ている神様、というか神魔。

 俺に除霊を頼んだ神様だ、今も親しくさせてもらっている。

 退魔寮――退魔師を統括する組織――はリツから嫌われているが、自分の縄張りへ挑発的に足を踏み入れたり、俺に危害を加えなければリツも退魔寮をどうこうするつもりはない。

 ミクモちゃんはリツと仲が良いから普通に出入りしているし、こうやってお見合い作戦で俺を身内に取り込むことも許容している。

 俺がお見合いを受けるつもりがないから、というのが理由だが。


「そして日に日に、ミクモちゃんを推薦する書簡が増えてるなぁ」

「まぁ、私以外に霊媒師さんと有効的な接点を築いてる退魔師はいませんし……それに、私だって立派な大人のレディなんですよ!?」

「はいはい、結婚できる年になってからね。……彼ら、写真使わないから全部人相書きでお見合い相手の顔が送られてきてるけど、ミクモちゃんの顔ですら安定してないな……」

「ムキー! またそうやって子供扱いして! ……ほら見てくださいよ、人相書きは私を大人っぽく書いてくれてますよ!」


 人相書きには、なんというか江戸時代の絵みたいな感じの古風な顔が描かれている。

 クオリティはまちまちで、中には本格的な画家レベルの絵から子どもの落書きレベルまで。

 外部の絵師とか雇ったりするわけではないから、送ってくる人の絵のレベルがダイレクトに出ているな。


「お見合いの誘い以外は……各地で出た霊魂や妖鬼、神魔による事件の被害報告か。相変わらず三号霊魂が異常に増えてるって話がメインだな」

「退魔寮でずっと問題になってますからねぇ」

「単純に、普通の人が死後の世界を信じなくなったから、あの世への生き方が理解らなくなってるだけなんだけどな」


 三号霊魂、前にも話したが霊魂の中で最も無害な霊魂だ。

 なぜ無害化と言えば、彼らには生前への未練がないから。

 この世界の霊魂は未練があればあるほど、厄介になる。

 だから本来なら、未練のない霊魂は普通に成仏できるのだが昨今はオカルトを信じる人がいなくなって、異様に三号霊魂の数が増えてたりする。


「退魔寮の人たちからしてみれば異常事態でも、世間の流れを見たら当然……みたいなことが最近は多いですね。退魔師は、時代に取り残されてますから」

「この書簡もそうだよなぁ。後は……ミクモちゃんの正装も」


 ミクモちゃんは現在、退魔師の正装で事務所にやってきている。

 肩とか露出したソシャゲみたいなデザインの巫女服だ。

 現代でコレを着て歩くのは、コスプレかなにかにしか視えないだろう。


「えー? そうですか? レームちゃんのコスプレみたいで可愛いですよ? それに、認識阻害の術式を施していますから、一般の人には普通の女性に見えています。……三歳くらい盛ってますけど」

「若い子に東方が人気なのってホントだったんだ……あとやっぱり盛ってるんだ……」

「やっぱりってなんですか!」


 とにかく、退魔師というのは古風な人たちなのだ。

 人里離れた場所に隠れ住み、独自の生活を営んでいる。

 時たま因習村かなにか? みたいな連中もいるから、面倒な話。


「それと、街の外に出るときは霊的アイテムは絶対に持ってでないでくださいね。相変わらず、街の外では霊媒師さんを見つけるための間者が張り付いてますから」

「暇だなぁ……まぁその点は大丈夫、街の外に出るときは車使うから。彼ら、車は避けるだろうし」


 恐ろしい話、そういう連中は俺を連れ去って強引に身内にしてしまえばいいと思っている。

 街の外――リツが睨みを聞かせていないギリギリの場所で待機して、俺を見つけて連れ去ろうとしているのだ。

 ただし、そういう人たちは車のような文明の利器は嫌うので、車に乗ってマスクでもしていれば確実に見つからない。

 向こうには俺の写真とか伝わってないし。


「あと霊媒師さん、今日は霊媒師さんのところでアニメとか見させてもらってもいいですか?」

「いつも通りのやつね、問題ないよ」

「やりました。これで溜まってるアニメを消化できます」

「ただし、お客さんが来るかも知れないからエッチなアニメは避けてね」

「見ませんよ!?」


 ――そんな中で、見ての通りミクモちゃんだけはそういった現代文明に抵抗がない。

 いや、他にも現代文明に抵抗のない若い退魔師はいるんだけどね。

 新世代、とでも言うべきか。

 その中で、俺の街に最も近い場所に住んでいたのが、ミクモちゃん。

 偶然にも俺が開業した際に作った『鞍掛霊媒事務所』のSNSサイトを見つけたのだ。


 そう、どうして俺がミクモちゃんに特定されたのかは、至って単純。

 どうして退魔師達が俺を見つけられなかったのかも、至極当然。



 退魔師は、科学的な道具を避けているが、ミクモちゃんは普通にスマホとか使うからだ。



 先日も、電話で俺に色々聞いてきてたしね。

 ちなみに契約とかは、新世代の中でも特に大人な、すでに成人している退魔師が保護者になってやってくれるらしい。

 退魔師にも、変革の時代がきているのだなーとか適当なことを思いつつ。

 書簡に目を通しながら、ミクモちゃんのアニメ鑑賞を横目に見るのだった。


 ――


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2024年12月3日 12:00
2024年12月3日 18:00
2024年12月4日 12:05

転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる 暁刀魚 @sanmaosakana

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