第4話 退魔師は霊媒師と出会う ①(他者視点)

 私、御鏡ミクモが霊媒師さんと出会ったのは今から半年ほど前のことになります。

 その頃、退魔寮は霊媒師さんの正体を突き止めることに躍起になっていました。

 なにせあの神魔”リツ”と契約し、彼女の縄張りで霊魂を成仏させて回る存在。

 これは喉から手が出るほどほしい人材だったからです。


 昨今、退魔師も数を減らしています。

 だというのに霊魂は数を増やすばかり、三号霊魂に至っては異常事態の前触れだと言われるくらいの数。

 そんな折に現れた人材、是が非でもほしいと思うのは当然の成り行きでした。


 ただ、実際の霊媒師さんは彼らの思っていたように霊魂を退魔する退魔師ではなく、除霊する霊媒師だったのですが。


 私が彼に出会ったきっかけは、知り合いの新世代の退魔師にスマホを買ってもらったことです。

 現代、退魔師は昔ながらの生き方に固執する旧世代の退魔師と、現代科学を受容してそれを活用する新世代の退魔師の二派に別れつつありました。

 そりゃそうですよね、私もそうですけど学校だと誰しも当たり前のようにテレビやスマホを使うのに、自分だけ使えないなんて不満を感じるのも当然です。


 私なんて、学校の友だちの影響でアニメとか漫画へすっかりハマってしまっているのに。

 家だと一切それを見ることが許されないのですから。

 ともあれ、そうして買ってもらったスマホで『鞍掛霊媒事務所』の存在を発見したのがすべての始まりでした。


 霊媒!? SNSアカウント!? 表の世界に事務所!?

 もうなんというか、退魔師の常識からは逸脱しすぎていました。

 ロックです、ロックすぎます。

 だから私はすぐに、彼へ会いに行こうと決めました。

 そうして出会ったとき、ちょうど彼は――霊魂を除霊していたのです。


 ありえない光景でした。

 霊魂は、たとえ第三号霊魂だろうと存在するだけで周囲に”畏れ”を与えます。

 退魔師だって、顔をしかめるくらいにはその霊魂たちは恐ろしい存在なのに。

 彼は、まるで隣人に声をかけるかのように霊魂を慰め――幽世へ送ってみせました。

 幽世、すなわちあの世。

 彼は言葉だけで、霊魂を成仏させてみせたのです。


 どうすればそんなことができるのか? 貴方には幽世の場所が解るのか?

 ……と彼に聞いてみたことがあります。

 曰く、


「俺にあの世の場所はわからないよ。でも案内自体は単純だ。三号霊魂は自分が死んであの世に行ってないことに気付いてないだけだから。死んだらあの世に行くんだよってことを伝えるだけでも、結構すぐに理解してくれるんだ」


 とのこと。

 解るような、わからないような。

 そんな物言いです。

 理屈はわかります。

 特に三号霊魂は無害な霊魂ですし、やろうと思えば私達にもできるのかもしれません。

 でも、どうやっても私達は霊魂を畏れてしまいます。

 本能的に、人間である限り。

 やはり、霊媒師さんは特別なのでしょう。


 こうして、私と霊媒師さんは出会いました。

 その後は父様へ無茶をしたことを叱られたり、退魔寮から霊媒師さんとの橋渡しを命じられたり。

 リツ様と顔合わせをして、なぜか退魔師であるにもかかわらず気に入られたり。

 色々とあったのですが。

 一番度肝を抜かれたのは、やはり初めて会った時のこと。

 彼はその日、親子の霊を除霊するために仕事をしていたそうです。

 私が出会ったときは、娘さんの霊を除霊していたときだったとか。

 その後は父親の霊を除霊するとのことでしたが、なんとその父親の霊は二号霊魂だったのです。


 それは、流石に危険過ぎます。

 二号霊魂は、強い生前への未練や執着によって悪霊になってしまった霊魂です。

 三号霊魂のそれと比べて、近くにいる人間への霊障被害は甚大なもので。

 一般的なホラー映画の幽霊は、ここに分類されると言ってもいいでしょう。

 一号霊魂はそんな二号霊魂が融合して一つになった存在です、それこそ少年バトル漫画の世界ですね。


 ともあれ、一人で二号霊魂を成仏させるなんて無茶もいいところ。

 胡散臭い霊媒師が、悪霊を成仏させるってそれ何のフラグですか?

 彼はいつものことだといいますが、流石に放ってはおけません。

 私も同行することにしました。


 とはいえ、すぐに後悔することとなるのですが。


 私、御鏡ミクモは天才です。

 退魔師としては、この若さで二号霊魂と渡り合うことだってできる逸材なんです。

 でも、やっぱり霊魂は恐ろしいのです。

 今回遭遇した二号霊魂も、まさしく脅威と呼べる存在でした。


 私の視界には、漆黒よりも黒い影が映っています。


 霊媒師さんには、彼が普通の霊魂に見えているのでしょうか。

 ありえません、私が出くわした霊魂はどこまでもどす黒く、こちらを吸い込んできそうなくらい黒い霊魂でした。

 影、闇、怨嗟、絶望、未練。

 闇でありながらその暗黒には眼があって。

 眼は、じっとこちらを見ています。

 眼、眼、眼、眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼――――



「――大丈夫」



 少しだけ呑まれかけていた私を、霊媒師さんはそう言って引き戻しました。

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