第5話 退魔師は霊媒師と出会う ②(他者視点)
思わずハッとして、頭をふる私。
二号以上の霊魂と相対すると、必ず感じる根源的な恐怖。
心を強く持ち、まっすぐ相手を見据えることでそれは回復しますが。
恐怖をすべて拭えるわけではありません。
今回だって、私は冷静になっても背筋に感じる得体のしれない感覚は拭えませんでした。
けれども、霊媒師さんは平気な顔をして、霊魂へ近づいていきます。
『――――――――!!』
霊魂が、霊媒師さんへの攻撃を開始しました。
無数の黒い刃のようなものが、四方八方から霊媒師さんを狙っています。
アレに触れれば、霊障によってダメージを受けるのは必至。
私は急いで結界をはり、霊媒師さんを守ろうとしますが――
そもそも、影が霊媒師を捉えることはありませんでした。
驚くべきことに、すり抜けていったのです。
そもそも、アレは私達退魔師にとっては攻撃ですが、霊媒師さんにとってはそうではありません。
霊魂の行う攻撃は、霊魂そのものが攻撃的になっているのではないのです。
あくまで、霊魂から溢れ出る未練や憎悪が周囲を攻撃しているだけ。
これが一号霊魂ともなれば物理的な破壊を伴うので、霊媒師さんでも簡単には行かないそうですが。
少なくとも、二号霊魂のそれは――霊媒師さんにとっては単なる”癇癪”でしかないのでしょう。
『――――!!』
「……なぁ、お父さん」
呆然とする私の前で、霊媒師さんはためらうことなく霊魂へ声をかけます。
お父さん。
彼は先に成仏させた娘さんの父親です。
そう言葉にされると、何となく私は――霊魂を私のお父様に重ねました。
『――! ――――!! ――!』
「……アンタの娘さんは、アンタに感謝してもいなければ、恨んでもいなかったよ」
『――!?』
「ただ――疲れた。そう言っていた」
『――!!!?!??!!??!?』
霊媒師さんの言葉に、霊魂は驚くほど動揺した様子を見せました。
先ほどから、霊媒師さんを”攻撃”している影が緩み。
余波でこちらに迫ってきていた影の刃も、霞んで消えてしまったのです。
私は、警戒を解きはしませんが――
「だから、娘さんはアンタに何も思ってない。それが全てだ」
『――――…………』
どうやらこれで、本当に終わったのだと。
そう、理解することはできました。
二号霊魂は、なんなく除霊されてしまったのです。
――後に聞いた話ですが。
父親は娘に、過剰とも言える期待を注いでいたそうです。
厳しくしつけ、自分の望む形に娘を育てようとしていたのだとか。
そして、それに疲れ切ってしまった娘さんが、死を選び。
父親は周囲から娘が死んだのは父親のせいだと攻められたのを苦に、後を追ったのだとか。
そして娘さんは三号霊魂に、父親が二号霊魂になったのです。
普通は逆だと思うかも知れませんが、霊媒師さんが言った通り娘さんはもう恨みを抱くことすらつかれていました。
逆に父親は、娘からの恨みを畏れていた。
それが本人を悪霊にしてしまうほど、大きな恐怖になっていたのでしょう。
そんな父親に、どうして霊媒師さんがあんな言葉をかけたのか、なんとなく私には解ります。
父親は娘に恨んでほしかったのでしょう。
死んでまで自分のことを思っていてほしいなんて、身勝手な話です。
私には、あの娘の感情が解ります。
私も――父様や周囲の人間へ期待を押し付けられているから。
自分でも、私が真面目な人間だという自覚はあります。
父様達がそうなるように、育てたから。
流石に、それで死を選ぶほど私は疲弊してはいませんが――それでも。
いつかは私も、ああなってしまうのかなと、そう思わずにはいられないのです。
そして、だからこそ。
異質なのは、霊媒師さんです。
彼の家庭は決して、私のような不和を抱えているわけではないとのこと。
本当にごくごく一般的な家庭で育ったと聞いていました。
だからこそ、どうして彼はあそこまで的確に、霊魂へ必要な言葉を投げられたのでしょう。
そんな私の問いに、霊媒師さんはこう答えました。
「死には、二つの意味がある。救済と逃避だ。今回の場合、娘さんは死による救済を選び、父親の方は逃避を選んだ。本人が死にどちらの意味を見出しているか。それによって、かけるべき言葉は自ずと解るんだよ」
事故による無念の死などは、また別とのことですが。
それでも私には、霊媒師さんがとてもすごい人に見えたんです。
だって私達が霊魂を畏れる原因は、それが”死そのもの”だからです。
人は誰だって、死ぬのが怖い。
それが畏れを産むのです。
だけど彼は、死を畏れていない。
それは単純に、彼が無謀だというわけではなく。
彼が死を受け入れて、その中に救いを求めているからこそ、彼は死を畏れないのです。
正直なところ、彼の考え方は退魔師とはあまり相性が良くないと思います。
なぜなら退魔師は、死を畏れそれを遠ざけるために退魔を続けているのですから。
退魔師は彼という人材を欲しがっていますが、退魔の考えに固まった今の退魔寮を彼が受け入れるでしょうか。
程よく距離を取って、連携はしつつも独立した存在であり続ける。
今の形が、彼の考えな気がします。
でも、それを旧世代の人が受け入れないのは、解ります。
ですから、私が彼をお守りするのです。
退魔師として、霊媒師さんを。
なにせ私は天才、御鏡ミクモ。
誰もが将来を嘱望された、未来の最強退魔師なのですから!
ですから、その、アレです!
霊媒師さんは、早く私を大人のレディとして扱うのですよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます