第2話 退魔師と霊媒師 ①
俺がこの世界に生まれて、かれこれ二十二年が経つ。
ようするに、大学を卒業して就職するまでの年月だ。
その間、今生の両親は俺を良く育ててくれた。
妹も弟も、なんだかんだ俺を兄だと慕ってくれていると思う。
とにかくおおらかな人達ではあるけれど。
つまるところそれは、俺が特別な家系の出身ではないということだ。
先祖に退魔師の一族と親戚関係の人がいたりもしないらしいし、とにかく俺の家族は普通の人達だ。
当然、そんな一家から生まれた俺も、霊的な才能はなにもない。
ただ、霊魂や妖鬼――この世界で”魔”と総称される存在を視認できるだけで。
これに関しては何ら違和感はない、むしろこの世界の法則的に視えていないとおかしい。
俺は彼らの同類なのだから。
これが普通の子供なら、周囲から気味悪がられたりもするのだろうが。
生憎と俺は前世の記憶持ち。
特に周りから、違和感を持たれることはなく。
少なくとも、八歳になる頃までは幽霊が見えるだけの普通の人として暮らしていた。
人目がなく、言葉を交わすだけで成仏してもらえそうな霊魂なら、定期的に成仏はさせてたけどな。
そんな生活に変化が起きたのは、とある神魔との出会いが原因だった。
この世界の霊魂とかを総称して”魔”と呼ぶのはさっきも言ったけど。
大別すると三つの種類に分けられる。
人が死んだ後の魂だけの存在、霊魂。
動物等の存在が変化した、一般的に妖怪と呼ばれる存在、妖鬼。
そして神や悪魔のような、想像上の伝説的な怪物を、神魔。
俺が知り合ったのは、この内三つ目。
神っていうのは、言ってしまえば人間とは違う価値観で動く存在だ。
でも、俺が出会った神魔は人が神になった存在だった。
だからかまぁ、他の神魔よりは話が通じる相手だったのだろう。
個人的には、自然現象に近い神魔よりも人間を襲うことが存在意義の妖鬼の方が恐ろしいな。
ともかく。
そんな話の通じる神魔は、俺にある頼み事をした。
神魔のテリトリー……まぁ縄張りだな、本人(本神?)の前でそういうと拗ねるので言わないが。
縄張りの中で発生した霊魂を”除霊”して回ってはくれないか? と。
何でも、人ってのは些細なきっかけで厄介な悪霊になってしまうらしい。
よその神の縄張りや、人間が守護している地域なら発生してすぐに力ある人間――つまり退魔師だ――が処理してくれるのだが。
どうにも、俺が出会った神様と退魔師は折り合いが悪く、なかなか自分の縄張りに回ってきてくれないそうなのだ。
そこで、俺に目をつけたらしい。
俺としては、別に普段からそういうことは時たまやっていた。
その延長として、積極的に除霊していくというなら別にそこまで苦にならない。
というわけで、俺は神様と協力して神様の縄張りの霊魂を除霊していくようになったわけだが。
これ、案外ちょっとした人助けみたいなものだった。
なにせ、除霊のためには霊魂の悩みを解決する必要がある。
その悩みを解決するには、死に別れてしまった人との再開とかが必要だったりするわけだ。
で、そういうことを積極的にしていると、近所ではそこそこ名のしれた有名人になったりする。
あの子は死んだ人の”声”を伝えてくれる、と。
それすなわち、霊媒だ。
やがて、お金を払ってでも霊媒をしてほしいという人も現れるようになり。
最終的に大学を卒業する頃には、街のお助け屋さんと化していたのだ。
だったら、それを仕事にしちゃえばいいじゃないか。
と思い立ったのが大学の三年頃の話。
だって、二度も就活とかしたくなかったんだよ。
お祈りメールはもういやだ。
かくして、俺は霊媒師として起業することにした。
霊媒で知り合った、起業の仕方に詳しいおじさんとかに手伝ってもらいつつ。
こうして、『鞍掛霊媒事務所』はスタートしたわけだ。
そしてその直後、俺は本職の退魔師と交流を持つことになる。
なんで今さら? 答えは簡単、それまで退魔師が俺の事を見つけられなかったからだ。
さっきも言ったが、退魔師と地元の神魔は折り合いが悪い。
そのせいで退魔師は神魔の縄張りで謎の人物が除霊を行っていることは認識していたけど、それが誰かまでは特定できていなかった。
じゃあ、なんでそれが事務所を開業してからバレたのかというと。
まぁ、ちょっと退魔師らしい事情があったのである。
◯
「霊媒師さん、入りますよ―」
「はいはい、ミクモちゃんいらっしゃい」
この日、退魔師の御鏡ミクモちゃんは俺の事務所に直接やってきた。
ミクモちゃんが直接事務所にやって来るときは、たいてい退魔師から俺への用事を持ってくるときだ。
なんでも俺と退魔師との連絡役を、ミクモちゃんが仰せつかっているらしい。
「というわけで、これが今回の退魔寮からの書簡です」
「また今回も数が多いなぁ」
「八割は見ないで大丈夫ですよ。お見合いの誘いですから」
書簡のほとんどは、なんか古式ゆかしい白い封書に入れられている。
時代劇とかに出てきそうなアレだ。
中身も時代劇みたいな手書きの手紙で、パソコンで作られたものは一つもない。
文字自体は現代的な仮名遣いだから、読むことに支障がないのが唯一の救いだ。
これ、これが退魔師が俺を発見できなかった理由に密接に関わってくるんだよなぁ。
――
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