転生して霊媒師になった俺、やたらと退魔師や妖にビビられる
暁刀魚
第1話 霊媒師は転生者である
突然だが、転生っていうのは人生をやり直すチャンスというのが一般的なオタクの認識だと思う。
今は冴えない自分でも、転生さえしてしまえば挽回できる。
そういう願望が、転生にはある。
だから転生者はチートを持ってるし、そのチートで前世では考えられないような大活躍を成し遂げるわけだ。
もちろん、それは一つの側面でしかないけれど。
少なくとも俺は、転生した直後にそういった展開を期待しなかったといえば嘘になる。
そう、俺は転生したのだ。
死んだ理由はあんまり覚えていないが、死んだという実感だけは覚えている。
案外あっけなく、俺の前世は終わりを告げて。
そして前世の記憶を引き継いだまま、新たな人生が始まった。
訳だが。
残念ながら、俺にチートと呼べるようなものはなかった。
というか、仮に持っていてもそれを使って活躍することは難しいだろう。
なにせ、俺が転生したのは現代。
転生モノにありがちな中世風ファンタジー世界ではなく。
文明の発達した、現代日本だったのだ。
そしてチートを持たない状態で、現代日本へ生まれ変わったとして。
果たして、満足の行く”やり直し”ができるかというとそうではなくて。
単純な話だけど、現代にチートなしで転生して転生モノの用に大活躍できる人間は果たしてどれだけいるだろう。
大人だった頃の知識を活かして、勉強で優秀な成績を残す?
子どもの頃の勉強を覚えている人間が、果たしてどれだけいるんだ?
運動を頑張る? 前世で引きこもり気味だったオタクに何ができる?
少なくとも俺は、殆どのことにおいて前世とさほど変わり映えのない人生を送り。
今日に至ってしまっていた。
ただまぁ、決して悪いことばかりではない。
現代世界で生活できるということは、文明的な生活を送れるということだ。
これが海外への転生だったらまた違うだろうが、日本から日本への転生となれば馴染むことは全く苦にならない。
どころか、中世風ファンタジー世界で、衛生的にキツイ環境で生きる必要がなくて良かったとも言える。
それに、転生した俺が全く特別な存在ではないかと言われたら、それは否だ。
少なくとも俺は、”転生者である”という他者と違う特別な存在であることは事実。
そして俺の転生した世界には、それが特別なこととして機能する前世とは異なるファンタジーな事象が存在していた。
具体的に言うと、幽霊や妖怪が実在したのである。
転生者――すなわち、一度死んだ人間である俺はそういった存在と交流することができたのだ。
その事を幼い頃の経験で知った俺は――なんやかんやあって、ある職業に就いた。
というか自分で開業した。
すなわち、霊媒師。
幽霊と言葉を交わし、そのメッセージを現世の人間へ届けるという。
まぁ、言ってしまえば胡散臭い職業である。
それに、この世界には”本職”の連中が存在する。
霊媒師などという、胡散臭い職業とは全く違う――退魔師と呼ばれる者達が。
だが俺には退魔師のような戦う力もなければ、特殊な異能もない。
故に、結局のところ霊媒と言ってもそれはエセ。
俺はエセ霊媒師なのだ。
だってのに俺と出会う退魔師や、その他霊能世界の関係者達は――
どういうわけか、俺に対してビビったりドン引きしたりするんだよなぁ。
◯
その日、我が鞍掛霊媒事務所に一本の電話が鳴り響いた。
鞍掛ってのは俺の名字だ。
鞍掛サトル、それが俺の本名である。
まぁ、多くの人は俺を”霊媒師”と呼ぶから。
あまり本名で呼ばれる機会はないんだけど。
「はいはい、こちら鞍掛霊媒事務所。本日はどうされました?」
『――どうされました? じゃないですよ、霊媒師さん!』
電話の内容は仕事の相談ではなく――同業者からのお電話だった。
いや、退魔師を俺みたいなエセ霊媒師の同業者扱いは、向こうに失礼かもしれないけどさ。
『またとんでもない霊媒をやってのけちゃったんですね!? これで今月何度目ですか!?』
「とんでもない……って、どれの話さ。――ミクモちゃん」
『どれ!? どれっていいました!?』
電話の相手は、御鏡ミクモ。
今年で十五歳になる退魔師一族”御鏡”の次期当主にして、天才退魔師。
透き通るような長い、ちょっと癖のある黒髪が特徴的で、背丈は同年代の中では若干小柄。
まぁ、俺みたいな人間とはかけ離れた、パーフェクトな美少女であるのだが。
以前知り合って以来、何かと御鏡ちゃんは俺のことを気にかけていた。
『あんな危ないことを、心当たりが複数生まれちゃうくらい何度もこなしてるって、普通じゃないですよ!』
「ミクモちゃんにとっては危ないことかも知れないけど、俺にとってはそうじゃないんだって。良く理解ってるだろ?」
『理解ってますけど、それでも心配なんです。それに、私は御鏡の次期当主ですから、一般人を守るのは当然の義務なんです!』
俺みたいな、霊媒師なんて職業を自称する人間を一般人扱いしてくれる当たり、ミクモちゃんは本当に優しい。
というか、普通に心配してくれる時点でかなり優しいよな。
『とーにーかーく! 説明してもらいますからね! 一昨日に起きた事件のことです』
「ああ、それね。……わかった、電話越しで大丈夫かい?」
『細かい資料は、後で送っていただけると助かります。あ、メモは用意してあるのでこのまま初めてください』
「相変わらず、真面目だね」
なんだか子供扱いされている気がします! と電話越しに帰ってきた文句を交わしつつ。
俺は、先日起きた事件の説明を始める。
どうでもいいけど、俺とミクモちゃんのどっちがしっかりしているかと言えばミクモちゃんの方だし。
前世の年齢を差し引けば俺はまだ22の若造で、ミクモちゃんを子供あつかいすることなんて以ての外だ。
ともかく、本題に入ろう。
「まず、俺は依頼を受けて、霊魂のいる場所に向かったんだ」
『はい』
「話を聞いたら、道に迷ってるみたいだから、道を教えてあげたんだ」
『……? はい』
「以上、終わりだ」
『はい?』
霊魂、というのはこの世界における幽霊の総称。
幽霊以外にも悪霊とか地縛霊とか、色々な霊がいるからそれを一緒くたに霊魂と呼ぶのである。
そして説明が終わった俺に、ミクモちゃんは不思議そうな反応を示した。
今ので説明は全部なんだけどな。
『まってください、霊媒師さんが退魔……じゃない、霊媒師さん的には”除霊”でしたっけ。それをしたのは第二号霊魂ですよ!?』
「そうだよ? いつもと同じじゃないか」
『いつもの二号霊魂とは違って、一号霊魂への格上げもあり得るって前情報だったはずですが!? それすら霊媒師さんは難なく除霊してしまうんですか!?』
第二号霊魂の第二号というのは、簡単に言えば霊魂の厄介度だ。
現世に対する未練や恨みの強さが厄介度に直結している……というと伝わりやすいだろうか。
こういう霊的存在と人が戦う世界だとそこそこ見かける設定だと思う。
そんな厄介度は全部で第三号、第二号、第一号、そして最上位の第零号が存在し、数字が少なくなるほど厄介になる。
俺が今回除霊したのは第二号霊魂、一般的には退魔師が数人がかりで”退魔”する必要のある面倒な”敵”だ。
俺の場合は、その限りじゃないけれど。
「前にも言った通り、俺は霊魂と普通に会話できるんだ。他の人は霊魂に攻撃されちゃうけど俺はそうじゃない」
『それは前にも聞きましたけどぉ……』
「だから霊魂が成仏できない理由を直接聞いて、その悩みを解決するのが――俺の”除霊”さ」
『やっぱりありえないですよぉ! 霊魂に攻撃されないなんて!』
そうは言うけれど、されないものはされないのだから仕方がない。
この世界の人間――というよりも、それを守る退魔師にとっては頭を抱えたくなる事実なのも間違いないけれど。
とはいえ、何故そんな事が起きるのか、疑問に思うのは当然だろう。
では、一体どうしてそうなるかと言えば――単純。
「でもしょうがないだろ? 俺は転生を経験してるんだから」
俺が転生者だからだ。
転生したということは、一度死を経験したということ。
「死を経験したことで、俺は霊魂から仲間だと思われてるんだよ。だから攻撃されないの」
『いくらそういう”設定”だからって、無茶苦茶すぎますよぉ……』
俺は、自分が転生者であることを明かしている。
ただし、”霊媒師としての能力の由来”としてそういう設定になっているというのが正しい。
だって、いかにもインチキっぽいだろ? 自分には前世の記憶があるなんていう霊媒師。
なのでそれを利用して、真実を嘘として周りに公言させてもらった。
なお、これを二番目に話した家族は、へーそうなのねーと大変おおらかな反応を示してくれた。
あまりにも適当すぎる人たちだが、こうして胡散臭い霊媒師になるといい出した俺を受け入れてくれるあたり、良い家族である。
『それにしたって、道を教えただけで二号霊魂が成仏するものなんですか……?』
「そりゃあするさ、なにせ――その子は、事故で亡くなって自宅への帰り道がわからなくなってしまっていたんだから」
『……! ごめんなさい、ちょっと軽率な発言でした』
「問題ないさ、その子もすでに成仏したからな」
今はもう、その子はこの世界にいないのだから。
「……人は死ねば霊魂になり、生前の未練が強ければ強いほど厄介な存在になってしまう。けど、結局その根底にあるのは、人としての願いなんだ」
『……』
「それを叶えてやれば霊魂達は成仏する。成仏すれば、きっと彼らは別の世界に転生するだろう。一度自分がそれを経験したからこそ、俺はそれが救いだと思っているのさ」
『なんていうか――』
俺のまとめに、ミクモちゃんは少しだけ考えてから。
『……霊媒師さんって、その胡散臭すぎる肩書の割に、すっごく真面目でいい人ですよね』
「胡散臭すぎる肩書の部分は要らないと思うなぁ……事実だけどさ」
『ご、ごめんなさい』
そういうミクモちゃんは、真面目で嘘のつけないタイプだ。
ちょっと危なっかしいところもあるけれど、成長が楽しみでもある。
きっといい退魔師になるだろうな、と思うのであった。
◯
――”霊媒師”鞍掛サトル。
その胡散臭い肩書に反して、退魔師世界で彼を畏れない人間はいない。
曰く、第一号霊魂を対話だけで成仏させた異端者。
曰く、一号妖鬼にすら一目置かれる怪物。
曰く――零号神魔と契約を果たした英雄。
御鏡ミクモが――というよりも、この世界の退魔師がかの霊媒師と交流を持ってからは、まだ日が浅い。
しかしそれだけの付き合いでも、彼を取り巻くいくつもの”噂”が真実であるということを証明するには十分だった。
何より――霊媒師と特に交流を持つ新進気鋭の”天才”御鏡ミクモをして、最も彼の恐るべき点は一つ。
畏れないことだ。
霊魂を、妖鬼を、神魔を。
この世の人ならざるものを、畏れない。
普通、人間とはそういった魑魅魍魎を本能的におそれてしまう。
退魔師ですら、鍛錬を積んでいても畏れを感じることはある。
しかしそれは何もおかしなことではない。
それが普通なのだ、人類は常に”理解できない存在”を畏れることで前に進んできたのだから。
だが、霊媒師は違う。
彼は霊魂を畏れない、人間であるはずなのに。
曰く、彼は前世の記憶を持つ転生者だという、故に霊魂から同類だと認識されているのだ、と。
しかしそうであれば、おかしい。
もし本当にそういった存在なら、人間は彼を畏れるはずだ。
なのに、人は彼を畏れない、隣人として普通に接している。
それはつまり、彼が人間である証。
人間であるはずなのに人ならざる存在、それらを総称して――”魔”を畏れないことこそが、彼の最も異常な部分である。
少なくとも、ミクモはそう考えていた――
――
現代退魔バトルに異物が入った感じのちょっとコメディとシリアスなお話になります。
基本はコメディ、霊は真面目に、みたいな塩梅です。
フォロー&レビューいただけますと大変励みになります。
よろしくお願いいたします。
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