第十一章 イッツ・カルキノスズ・タイム ④
鏡谷たちが現場に到着した。
「久鎌井くん、状況はどうだ?」
「……見ての通りですよ」
鏡谷が堤防に上がると、目の前では、海上に現れた広い円形の平面の上で、銀色の巨人と、五体合体ロボが、大怪獣との攻防を繰り広げていた。
だた、その足元は“アイギスの盾”と合体した“キビシスの袋”であるため、衝撃も音も聞かれなかった。
「久鎌井くんもギリギリだな」
両手を構え、バトルフィールドを維持している久鎌井の額には汗がにじみ出ていた。
「バレちゃいました? これが終わったら、たぶん俺、丸一日寝込むと思います」
いつの間にか、暗黒の“アンドロメダ”を包んでいた“キビシスの袋”も消えていた。力を割いている余裕がないのだろう。
しかし、“アンドロメダ”は意気消沈しているのか、ただ目の前で繰り広げられているプロレスを呆然と眺めているだけだ。
そこに、四人の
「あ、お前ら―――」
彼らの姿を認め、にわかに息を吹き返したように、“アンドロメダ”が立ち上がった。
「いいのかよ、お前ら! あたしが生贄になればあの怪獣は消えるんだ! それだけが解決法なんだ! なあ……」
訴える“アンドロメダ”。しかし、そんな彼女を見つめる四人の表情は落ち着いていた。
一人一人が、ここに至るまでに答えを出していた
決意をしていた。
これからの自分がどうするかということを。
もう、彼らの心は足踏みをしていない。
いまにも、新しい一歩を踏み出そうとしている。
「そんな……」
“アンドロメダ”の身体が光の粒子を放ちながら、薄れ始めた。
「堀くん! 飯島くん!」
鏡谷が大声で声を掛けた。
背後を確認し、皆の姿を確認した慎太は、いったんその場を洸に任せ、彼らの元にやって来た。
「もういいんですね」
彼らの表情と、消えかけている“アンドロメダ”を見て、慎太は満足した。
彼らも、慎太の言葉に力強く頷いた。
「何言っているんだ。あいつはあたしが生贄にならなきゃ消えやしないんだ。お前たちにはどうすることも出来ない!」
「どうにかするから、安心して消えて、“アンドロメダ”。もう生贄は必要ない。生き延びて、幸せな人生を送ったアンドロメダになるんだ。………でも、その過程には、お前も必要だったのかもしれないな。だから、お疲れ様」
「あ、ああああああああああぁぁぁぁぁ………」
暗黒の“アンドロメダ”は消えた。
同時に、四人の因子所持者の身体も薄れ始めた。
彼らもまた、いまは生身の存在ではなく、また核となっていた『思い』も消えつつある。
「堀くん、ありがとう」
担任の木下が、代表して礼を言った。
「うん、終わらせてきますからね。ボクと洸ちゃんで。せっかくだから、最後まで見ててくださいね」
「もちろんよ」
他の三人も頷いた。
「堀くん、“槍”を使うかい?」
「はい、アキレウスの“槍”、“トネリコの槍”を使います」
鏡谷に質問に頷くと、慎太は組み合っている洸の元へ戻っていった。
「槍、ですか」
「久鎌井くんもアキレウスについては勉強不足か?」
「
「アキレウスは、傷の癒えない槍を持っている。それは賢者ケイローンが切り出したトネリコの木を、勝利の女神アテナが磨き、鍛冶の神ヘパイストスが青銅の刃先を付けたという槍だ。癒えない傷であれば、いつかは相手を死に至らしめることができる。つまり、確実に倒すことが出来るということだ」
「……時間がかかるのは、ちょっと」
久鎌井の様子では、もう限界が近いのだろう。
「大丈夫さ。もうすでに決着はついている。ちょっとした儀式みたいなものだよ。たぶん」
「たぶん、じゃ困るけど、とりあえず祈っときます」
慎太は洸のもとに辿り着くと同時に、上空から“ケートス”に飛び蹴りをくらわした。
二人との距離が、ある程度離れた。
“アンドロメダ”は自分が生贄にされなければ、倒すことが出来ないと言っていたが、“ケートス”も確実に弱っているようであった。
“ケートス”は、“アンドロメダ”が引き寄せていた、他人に変わることを強要する化け物だ。
しかし、“アンドロメダ”が消えたいま、この場に他人に変わることを強要しようとする人間はいなかった。
だが、自然消滅は待ってられない。
(先生たちに、終わりを見せたい)
それが、慎太にとっての仕上げだ。
「洸くん、“トネリコの槍”を使うよ」
「何それ?」
「アキレウスの槍だ。その槍でつけられた傷は、決して癒えることはない。絶対に相手を死に至らしめる槍だ」
「そんな槍があるの? でも、オレよく分からんけど」
「大丈夫、ボクが出すから、真似して、いくよ!」
「おう! 慎ちゃんを信じるぜ」
慎太が片手を掲げ、少し遅れて同じように洸も構えた
「アキレウスの槍よ! 賢者ケイローンより与えられた、神々が
慎太の声に応えるように、空間から槍が
「“トネリコの槍”よ! つべこべ言わず出やがれ!!」
洸の適当な口上でも同じように槍は現れ、その手に収まった。
“ケートス”は彼らの手に武器が現れたことなど意に介さず、突進してくる。
「行くよ! 洸ちゃん!」
「任せろ! 慎ちゃん!」
二人の顔はそれぞれ光の巨人と、合体ロボのものだ。
表情は動かない。
しかし、彼らは笑っていた。
楽しそうだった。
子供の頃一緒に遊んだ、
ドッジボールをしていた、
あの時のように。
「「でやあああああああああああああああ」」
投げ槍。
二人は振りかぶり、突進してくる大怪獣目掛けて投擲した。
突進してくるのだから、
ようは二人とも、はしゃいでいたのだ。
楽しそうにしていても、思いは真っすぐ。
その思いに応えるように、槍は真っすぐに飛び、相手の身体に突き刺さった。
“ケートス”の突進が止まった。
そして、苦しそうなうめき声をあげると、いままで“アンドロメダ”が召喚していた怪物よろしく、泥のように崩れ、地面にしみ込むかのように消えていった。
「堀くん! 飯島くん! 久鎌井くんが限界だ、足元が消えるぞ!」
「やばい! どうする、慎ちゃん? って、慎ちゃん!」
「……え?」
慎太の方も限界だったのだろう。意識が
「まずい!!」
洸も慌てて変身を解いて、着水した。
ほぼ同時に落ちて来た慎太は頭から入水した。放っておけばそのまま海の底まで沈みかねない様子だ。
「そこまでは考えてないのかよ!」
洸はまだ同調状態は解けていない。持ち前の身体機能と同調状態の能力で、沈みゆく慎太の身体を抱え水面まで出ると、驚異的なバタ足で波消しブロックに辿り着くと、人ひとり抱えたままやすやすと跳躍した。
「もういいな、あなた方も」
鏡谷の言葉に、返答も出来なくなってきた
「あれ? 消えちゃった?」
スタッという軽い足音とも着地した洸。
「ああ、消えた。終わったよ」
夜が白み始めていた。
久鎌井も、意識はあるが大の字に寝そべって目をつむっており、言葉を発する元気はなかった。
慎太は、完全に意識がない。
「さて、夜が完全に開けてしまう前に、彼を部屋に戻してやろう」
「はい」
「みんな、明日は休日だ。ゆっくりと休むがいい」
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