第七章 ワンダリング・ガール ③
慎太と洸の住むこの市は比較的広い。
かつて合併した海に面した三町も含めると、端から端まで移動するのには自動車でも一時間以上は優に超える。そのため、いくらアバターの恩恵があるとはいえ、全域を網羅して捜索しようとするのは容易ではない。
そのため、慎太と洸と久鎌井の三人は、久鎌井だけが単独で、残りの二人は鏡谷とともに行動するといったチーム分けをした。ちなみに慎太と洸は夢遊状態での参加である。
そのように分けた理由は二つある。
一つはアバターの感知ができるのが久鎌井と洸の二人だからだ。
捜索の前にアバターの気配とその感知について慎太と洸に説明し確認をしたところ、慎太は曖昧であったが、洸は感知が出来るようになっていた。その時に二人が“パンドラ”の二人に告げたのだが、実は土曜日に洸が同調状態に達したというのだ。
これは土曜日の昼間に、洸から生身で能力が使えるかチャレンジしてみたいと慎太に相談があり、慎太の部屋で試してみたらしい。そうしたら出来たというのだ。
足首に手形のアンクレットが現れ、その姿を他人に変えることが出来た。
まだ、知り合いに変身できるくらいのようで、夢遊状態の時のように空想上の存在にはなれなかったが、それも慣れ次第だろう。
このような変化について鏡谷は、金曜日の夜にした自分との会話が彼とアバターとの親和性を一段階進めたのだろうと推測していた。
彼が、自分自身の
その結果、アバターの気配も敏感に感じられるようになったと思われた。
そして、二つ目の理由は移動能力だ。
久鎌井は“ヘルメスの靴”による卓越した移動能力があるが、二人にはない、そのため彼らは鏡谷の車に乗っている。ただ、実は洸一人であれば、かなり早く移動できる可能性がある。アキレウスは足の速さでも有名な英雄であり、それに加え洸自身がアバターの能力抜きで足が速いのだから、アバターの力を存分に発揮して走ったとしたらどれほどのものかは計り知れない。いままでは変身能力を中心に“アキレウス”の能力を扱う練習をしていたが、同調状態まで達したのならば、次は基礎能力を確かめたいと鏡谷は考えていた。
しかし、いまは感知能力も基礎能力も乏しい“カルキノス”とともに動くため、車でまとまって動いた方が良いと判断したのだ。
そうして深夜の捜索は始まったのだが、初日は謎のアバターに遭遇することは出来なかった。
久鎌井は一度現れた住宅街を張り込み、他の三人は駅周辺を張り込んでいたが、アバターの気配は別の住宅街に出現し、駆け付けたころには気配が消えていた。
しかし、思わぬ収穫があった。
久鎌井が張っていた住宅街で、深夜にベランダに出て周囲を見回している男性がいたのだ。
翌日の火曜日に鏡谷が訪ね話を聞くと、一昨日の深夜、謎の少女の姿を見ているというのだ。
鏡谷はさらに詳細を尋ね、男は自分の見たありのままを話した。
男としても、自分の不可思議な体験について相談できる相手もいなかったので、話したくて仕方ないといった様子だった。
その内容は非常に有益なものだった。
鏡谷はその情報をもとに、正体不明のアバターにとりあえずのコードネームを与えた。
見た目の性別。
そのアバターを狙って現れた半魚人のような化け物。
自らを生贄に捧げようとしたその行動。
「海の化け物に生贄として捧げられた女性と言えば、アンドロメダしかいない」
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