第4話 新生勇者パーティー
奏人はかつて魔王城の庭園であったはずの場所の手入れをするべくルーデウスについていっている。ルーデウスは奏人のことを好意的に受け入れていないために、結構大きい歩幅で、結構早い足取りで進んでいく。
「ヴィルヘルム様がお前を四天王に認めたからといっていい気になるなよ。四天王になったからには、魔王より後に死ぬことは許されない。力自慢の魔族は四天王の殺して下剋上を果たそうと目論んでいる。覚悟がないなら辞退しろ」
ルーデウスは奏人のことをぎろりと睨みつけた。ミカエラも陰で負けじとやり返す。
つくづく魔王軍は相手を萎縮させることに長けているな。
「ただ、何年もお仕えした私と同じ地位に一日足らずでなったお前への嫉みがないと言われたら嘘になるが」
ルーデウスはごほんと咳払いをした後に、もごもごとそんなことを述べる。奏人は思わず口角を上げてしまう。いっそうルーデウスは歩行速度を上げたように感じた。
「ほら、着いたぞ」
重々しい壮大な扉を開けた先には大小様々の瓦礫が散乱して、草花が剥げ、岩肌が見えた庭園があった。
「お前達がここを荒らしてからずっとこのざまだ」
ルーデウスは面倒臭そうに舌打ちをする。よく見ると所々にできているクレーターにはゴブリンやスライムなどの低級魔族が跋扈していた。彼らはたびたびルーデウスに牙を剝いては、殺されるを繰り返していた。
「申し訳ない」
「いや、別に謝罪を求めている訳じゃないんだが……。とにかく、魔族が魔王城に湧くということはヴィルヘルム様が今、とても不安定な状態だということだ」
魔族の活動エネルギーである魔力というものは無尽蔵にある訳ではない。ある決まった量を奪い合うようにしてバランスが保たれてある。魔王の側近になろうと多くの魔族が潜在的に思うのは、強大な魔力をなんらかの形で手に入れやすいと理解しているからなのだろう。
しかし、莫大な魔力が消費されるなど、そのバランスが崩れることがたまにある。そんな時に力関係は変化する。空気中に放出された残留魔力を魔族が吸収し始める。結果的に、魔王の魔力は散り散りとなって集権的な組織体制は崩壊する。
「つまり、ヴィルヘルム様は今本体にほとんど魔力が残っていない」
「いや、まだ一応最低限はあるだろうが、それでもこのまま眷属を増やし続けたら……」
肉を切っても、骨を断てないとしたら……。自らの血肉をヴィルヘルムは部下に与え続けている。最後の晩餐でイエスは自分の死を予言していたように、まさか。
「魔王が滅びたらどうなるんですか」
「そんなの新たな魔王が誕生するに決まっているだろ。でも、ヴィルヘルム様よりは暴君が生まれるだろうな。そんな杞憂したとこで意味はない。お前はあそこの瓦礫でも撤去してくれ」
ルーデウスはぶっきらぼうに指をさす。残酷なほどに弱肉強食の世界だ。
奏人は足元の下級魔族を滅しながら前に進む。血は塵となって空気中に取り込まれ、死体は急速に腐敗して匂いがするよりも先に土に還る。
「スペルク様、何で魔王の味方なんて。それじゃ、仲間の皆さまに合わせる顔がないじゃないですか」
ルーデウスがいなくなるのを見計らって、ミカエラが口を開く。拳を握りしめて、訴えかける。
「もう自分はダメなんだ。だから、ミカエラ君だけでもここから出して上げる。今にもリンクを解除をしたら逃げ出せる。ここなら、魔王の魔力感知にも引っかからない」
「何で、何でそんなこと言うんですか。今、私も女神に見捨てられているんです。そんなに私のことが大事だって言うのなら、私を女神様のもとへ届けてください。そうして、魔王なんか倒してくださいよ」
ミカエラは大粒の涙を目にいっぱい浮かべながら、スペルクの手を包み込むように握る。奏人はその実体なき手の温もりを感じながら、もどかしさを覚えていた。
奏人には今のミカエラを見る資格がない。視線は自然と下の方へ向かって、心も落ちていくような感覚に陥ってしまう。
「おお、魔王軍見っけー」
奏人の身体に巨大な火球が衝突する。一日かけて埋め立てた、地面はまたも抉りとられた。
奏人はたった今ルーデウスの舌打ちの真意に近づけた。頬がつねられるような感覚だった。
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