第11話
「「お邪魔じゃない!」」
「凄! めっちゃシンクロしてる!」
ん? そのセリフ、似たようなやつ、どっかで聞いたような……思い出した。姉さんだ。昨日、家に泊まってけば? みたいなことを言われて、僕と
僕の隣りで、言葉を失っている音谷もきっと、同じことを思い出しているに違いない。
そんなことがあったなんて、まったく知らない
「ごちそうさま。それじゃ、片付け始めよっか」
美馬さんは、弁当箱をランチクロスで
「で? 私、何したらいい?」
音谷よ。美馬さんは、やる気のようだが、いいのか? 片付けをするなんて、本当は嘘だよな? 元々は、今後の学校での過ごし方のあれこれを話し合うはずだったのに……どうする?
僕のそんな心配をよそに、音谷は、理科室の片付けをはじめた。
「美馬さんは、こっちを。音谷さんは、ここを、これで拭いてくれる?」
音谷は、美馬さんに雑巾を渡した後、僕にも雑巾を握らせ、本を開けたり閉じたりするかのように、両手をパカパカと動かした。
ん? 何それ。えっと、これ? これを……開く? ってこと?
僕のつたないジェスチャーに、音谷が小さく頷く。
どうやら、合ってるみたいだ。
握らされた雑巾を広げようとすると、音谷が慌てて、テーブルの下を指差す。
えっと、これはきっと、テーブルの下で開けってことだな。
美馬さんから見えないように、かがみ込み、雑巾を広げると、そこには1枚の小さな紙切れが挟まっていた。
『ひとまず、適当に片付けるふりして。話し合いは、また後で』
急いで書いたであろう震えた文字が並ぶメモ書きを読んだ僕は、テーブルから顔を出し、音谷に向かって、了解の意味を込めた下手くそなウインクを送る。
パチクリ!
一瞬、舌を短く出し、うえっとえずくような仕草を見せた音谷だったが、右手で小さくオッケーサインをこちらに向けてきたから、なんとか僕の返答は伝わったと思う。
言葉やジェスチャーで、美馬さんにバレないよう、僕なりに配慮したつもりだったけど、よくよく考えたら、ちょっとキモかったかもしれない。
それから僕たちは、テーブルやら床やら、その辺を適当に拭きまくり、昼休みの大半をやり過ごした。
「ねぇねぇ、そろそろ教室戻った方がよくない? 休み時間終わっちゃうし、次の授業体育だし」
体育⁉︎ そうだった。完全に忘れていたが、5時間目は、体育じゃないか。
体育は、僕の中の、無くなってほしい授業ランキング上位常連であり、特に昼休み後すぐの体育は、3本指に入る強者だ。
僕たちは、片付けを切り上げ教室に戻り、ジャージに着替えると、体育館へ移動。
「ほのちゃーん!」
体育館に入るなり、美馬さんに手を振りながら駆け寄って来たのは、
「昼休み、どこ行ってたの? なんか用事? 珍しくほのちゃんが教室にいないから、みんな心配してたよ」
「ごめん。ごめん。ちょっと2人の手伝いしてたの」
「手伝い? 音谷さんと
おおぅ。大鷲さん、音谷のことも、そして、僕のことも知ってくれてたのか!
僕の中で、ギャル大鷲の評価が、グッと上がったのは、言うまでもない。
「そうそう。ほら、今、理科室使えないじゃん」
「あー、何でか、よくわかんないけど、そうだね。でも、何で急に理科室の話?」
僕の横に立つ音谷をチラ見すると、案の定、目を泳がせ、たじろいでいる。
「理科室って、科学部の部室でしょ? 音谷さんと角丸くんって、科学部だからさ、2人で片付けてるんだって。だから、私も少し手伝わせてもらったの」
「おお! ほのちゃん、優しいーー!」
何か今の発言には、素直に喜べない部分があるけど、手伝ってくれたのは事実だし、
5時間目のはじまりを知らせるチャイムが鳴り、体育教師の
「集合! 今日は、バスケだ! 体育委員は、倉庫からボールを取ってきてくれ。チームは、出席番号順の5人で1組。人数が足りないところは、先生が入るからな。それじゃ、それぞれのチームに別れてくれ」
ん? どうした? どうした? 音谷、そっちには誰もいないぞ? お前、まさか! 見学する気か!
「あれ? 角丸くん? どこ行くの?」
僕のちょっと意地悪な引き止めに、ピクっと体を揺らした音谷が、振り返り言う。
「そ、そうだった。僕は、体育委員じゃなかった。体育委員なのは、音谷さんだった」
なんで、そんな棒読みなんだ? と、ツッコミを入れたくなるところだが、それよりも先に、ツッコまないといけないことがある。
「体育委員、なの?」
自分を指差す僕に、音谷がこくりと頷く。
僕もそうだが、音谷も明らかに体育委員をするガラじゃないのに、なぜ、そんなことになった?
「えっと、なんで?」
「委員会決める時、誰も手をあげなかったから、くじ引きになって、当たった」
あー、そういえばそんなこと、あった気がする。
まぁ、それなら仕方がないね。
音谷が、体育委員になってしまった理由に納得出来た僕は、倉庫へ向かう。
「ボール、ボール」
独り言を呪文のように呟きながら、ボールを探してはみるものの、薄暗い倉庫の中は、想像以上に視界が悪く、なかなか見つけられない。
「音谷さん、あった?」
ん? その声は……誰だ?
振り向くと、倉庫の入り口で、体育館の灯りに照らされた誰かのシルエットが見えた。
目をこらしてみるも、ぜんぜんわからない。
だんだんと、近づいてくるシルエット。
僕のすぐ手前まで来た時、それは起こった。
ガチャン! ドンッ! バタン!
「ゔわぁ!」
シルエットの人物は、倉庫に置かれた、バレーボールのネットやポールをひっくり返した後、卓球台にぶつかり、跳ね返った勢いで、僕をマットの上に押し倒した。
「痛てて。お、音谷さん! 大丈夫⁈」
「んーー?
「何でって、俺も体育委員だから」
倒れた時の衝撃で、メガネがどこかへ吹っ飛んでしまったが、片手分ほどの距離にある顔は、ちゃんと認識できた。
前島
「……」
なぜか、微動だにせず、僕をじっと覗き込む前島。
こうしてまじまじ見ると、前島って、やっぱイケメンなんだな。羨ましい。
などと僕が思っている間、前島は、え? え? 待って、待って。今までぜんっぜん気づかなかったけど、実は、音谷って、すげーかわいいじゃん! と思っていたことは、僕には知る由もなかった。
「あの、前島くん? できれば早く、どいてほしいんだけど?」
「あ! ごめん。ごめん。いまどく」
「「キャ――!」」
前島が、僕から離れるよりも先に、僕ではない女子の悲鳴が、倉庫にこだました。
声の主は、美馬さんと大鷲だった。
「ふ、ふたりして、何してるの?!」
「何か、すごい音したから心配して来たのに、何やってんだか。さすがにヤバくない? 授業中だよ?」
「いや、待って。これはそんなんじゃないって! 倉庫入ったら、何かにつまずいちゃって、コケただけだって」
慌てて立ち上がり、弁明しようとする前島に、大鷲の冷たい視線が降り注ぐ。
「ええ⁉︎ あやちゃん、やっぱりこれって、そういうこと? いくら音谷さんが大人しい娘だからって……」
「いや、だから違うって。頼むから信じてくれよ。音谷さんからも、何か言ってやってくれ」
マットの脇に落ちているメガネをみつけた僕は、それをかけ直すと言う。
「うん。押し倒された」
「うわー。やっぱりじゃん。前島、お前。最っ低だな」
大鷲の冷めた視線が極寒に変わる。
「けど、わざとじゃないのも、本当」
「え? そうなの?」
「ほらな。大鷲、人の話しは最後まで聞くもんだぞ!」
「それは、ごめん」
「はぁ、良かった。もう心臓止まるかと思ったよ。それじゃ、先生もみんなも待ってるから、ボール持って戻ろう」
倉庫から出ると、入り口には、なぜか、頬を赤く染めた音谷の姿があった。
なんて顔してんだ。それと、その内股。両手を口に当てるのもやめて! ぜったいみんなに、角丸って、ちょっとアレだなって、変なやつ扱いされちゃうから!
「お、おい。どうだった? 前島くんは」
「どうだったって……別に」
「別に? ちょっとは、何かあるだろ?」
「んーまぁ、近くで見たら、前島は、やっぱりイケメンなんだなって、思ったかな?」
「そ、そうだろ! んふふ」
んふふって、なんだ? 僕は、小走りで戻って行く音谷の後ろ姿を、首を傾げながら追った。
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