第6話 そびえたつタワー
エルルの家は中まで凄かった。
デカイ部屋がいくつも続いている。たくさんの椅子に大きなテーブル、壁には高級そうか絵画が飾られている。
地面には高級そうな絨毯が敷いてある。……エヴァの家とは大違いだ。いや、これはバカにしているとかじゃなくて。
気にかかるのはエルルの変な絵だ。Vtuberってなんだ?
まあ、それは後で聞くとして、エヴァとエルルになぜここまで貧富の差があるのか。
高ランク魔物の討伐でもしたのだろうか。その報酬? いや、魔物がいる世界には思えない。
とはいえ秀才のエルル。何か稼ぐ手段があるのだろう。
ふかふか、もふもふの椅子に座っていると、白髪、エルフ耳を揺らしたエルルがお皿に菓子を入れて持ってきてくれた。
「はい。新星堂のチョコレートクッキー。クロトなら絶対気に入ると思う。エヴァさんもどうぞ!」
「ありがとうございます」
「しんせい……どう?」
「限定品で手に入れるの大変なんだよ」
「げんていひん」
恥ずかしがり屋だったエルルはちょっと明るくなっている。いや、かなりか?
俺の近くに座って、上目遣いで目を合わせてきた。距離近っ!
「……美味いなこれ。オヴィド村で食べたのと似てるな」
「えへへ、喜んでもらえると思った」
備え付けの黒い飲み物も美味しい。ちょっと苦いけど。
っと、それより山ほど聞くことがあるんだ。
「エルル、正直訳の分からないことだらけなんだ。あの日、地球へ行ったときからの出来事を教えてもらえないか?」
「……わかった。でも、今から言う事はクロトにとって悲しい事かもしれない。それでも……いいかにゃ」
「もちろんだ。……にゃ?」
「き、気にしないで!? 今のはその仕事柄……」
「仕事?」
よくわからないが、エルルは小さな板を見せてきた。
スマホ、というものらしい。
「まず、今の私は僧侶エルルなの。この動画を見て」
「そりゃもちろん知っている――」
『新生Vtuber、僧侶エルルをよろしくにゃんっ♪』
スマホには、小さなエルルが映っていた。
両手を丸めて、にゃんっと言いながら首を傾げながら舌を出している。
「こ、これ、みたぞ! やっぱりお前だったのか!?」
「そう。私は今この仕事でご飯を食べているの」
「どゆこと」
いやほんと、どゆこと。
それからエルルは詳しく説明してくれた。
三年前、ウルトス、リーファ、エルルは“シブヤ”に転移したらしい。
俺と違って服は破けていなかったらしいが、やはり魔力は使えなかったという。
そこに同じく現れたのは、魔王エヴァだった。
『やはりエヴァ、あなたここにいたのね』
『リーファ、油断するなよ!』
『……みんなは、私が守る』
一瞬即発だったものの、魔法は使えないので戦う事はなかった。
それから既に日本で暮らしていたエヴァに色々と教えてもらった。
今いる場所が地球の中に存在する国、日本であるということ、その中の東京にいること。
人種、通貨、法律、などなど。
そして――。
「エヴァさんは魔王ですが、今は脅威ではありません。そしてそれには理由があります。――魔の角が転移窓の衝撃により破壊されたからです」
「……やっぱりそういうことか」
俺の予想は当たってたらしい。ツノには悪意が詰まっていた。
それがない今、エヴァは善悪の区別がつく魔王になったという。
エヴァはことんっとコーヒーを置いた。(教えてもらった)
「エルルさんのおっしゃる通り、ツノが消えたと同時に人間への恨みはすべて消え去りました。とはいえ、今までの行いが許されたとは思っていません。これから償うべきだとも思っています。そのために私は、オルトプラスへ戻りたいんです」
予想外の言葉に戸惑うも、なぜか真実だともわかった。
警察から俺を助けたことも信憑性を高めているが、何よりも態度だ。
魔の者は傲慢で人間を見下す。なのに今の彼女にはそれがない。
電車でもおばあさんに席を譲っていた。そんなのありえない。
「でもエヴァ、なぜお前がオルトプラスに戻りたいんだ? この世界で生きて行けばいだろう。戻れば魔王として討伐されるぞ」
「そうかもしれません。ですが、私が真に償うべきは、オルトプラスの民だからです」
にわかには信じられない。魔王は、とてもしおらしくなっていた。
これが真実か嘘か俺にはわからない。例えば嘘がつけない人種だとしてもだ。ただ俺は信じている。エルルを。
彼女が危険はないというのなら本当だろう。仲間は信用して当然だ。
とはいえ俺は信じる。魔王のことではなく、エルルの言葉をだ。
でもそれとオルトプラスの民が許すのかどうかは別だ。いくら魔王が後悔したとしても、俺は勇者として責務を果たす。
「エヴァ、お前のことはまだ信用していない。だがその気持ちはしかと伝える。俺と一緒にオルトプラスに戻った後にな」
「もちろんです。ですが……」
「クロト、それで大事なことなんだけど」
「どうした? エルル」
「忘れたの? この世界では、魔力が」
「……そうか。使えないのか」
「そう。
魔力が充満していたオルトプラスでさえ、エルルとリーファがいてやっとだった。
俺も魔王城の近くでようやくだ。
日本では確かに不可能だろう。
「いや、でもエヴァは魔法を使っていたぞ。俺を、助けてくれたときにな」
「私だけはなぜか大気中の微量な魔力を吸収することができるんです。ですが、あの程度の魔法でも半年間分を消費しました」
洗脳魔法は魔族からすればただの初級魔法。指に光を光らせる程度のものだ。
なのにそれが半年? なら転移窓は数億年かかりそうだな。
「ほかに手はないのか? 例えば魔力が満ちているところとか」
オルトプラスの魔王城みたいな場所があれば可能かもしれない。
諦めるのはまだ早い。俺は勇者クロト。困難に立ち向かったのはこれが初めてじゃない。
「ないこともないけど……いえ、実は私とウルトス、リーファはそこへいったことがあるの。でも、耐えられなかった。もう体が、魔力を受け付けない身体になってたのよ」
「受け付けない?」
「そう。吐き気やめまい、頭痛。きっと転移の最中に何かしら遺伝子の変化が起きたのよ。遺伝子ってのは、また今度説明するけど、身体の一部がって思ってくれればわかりやすいかも」
「そんな……。いや、でも俺は少し魔力を感じられる。これは?」
「クロトは特別なんだと思う。そして、エヴァさんもだけど」
つまりなんだ。その魔力が満ちている場所へいけるのは俺とエヴァだけってことか?
……魔王と勇者が? 手を取り合って
……それは、流石にどうなんだろうな。
いくら緊急事態とはいえありえない。
「で、その満ちた場所ってのはどこなんだ?」
「ええと、そうだね。言葉で説明するより、目で見てもらったほうが早いかも。こっちにきてクロト」
立ち上がったエルルは窓へ近づいていく。大きな窓。いや、大きすぎるだろ。
窓を覆っていた布を右へ引っ張ると凄まじい景色が飛び込んできた。
家が見える。これが、日本の家か。
こんな高いとこに住んでるんだな、エルル。
……ん?
「見えた?」
「……嘘だろ。なんで、なんでここにあるんだ」
視界の先、随分と見慣れたものが立っていた。
魔王エヴァを倒すために俺たちは王都を出発した。
長い旅だ。そうなれば金がいる。
そのとき、金策で稼げるとっておきの場所があった。
無機質な棟。でも中はとんでもなく広い。
――ダンジョンが、そびえたっていた。
――――――――
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