第5話 僧侶エルル

 朝食を食べ終えたあと、俺たちは“電車”に乗っていた。

 デカくて長い馬車です、とエヴァが教えてくれたものの、馬はいないみたいだ。

 それより――。


「見ろエヴァ、外の景色が目まぐるしく移り変わっているぞ! こんな早いのに乗ったのは初めてだ。楽しいな」

「はい。しかし、電車内では静かにしないとダメですよ」

「え?」


 パッと視線を周りに向けると、クスクス笑われていた。

 流石にハシャギすぎていたらしい。反省。


 初めはどうかと思ったが、地球は俺が思っていたよりも良い所みたいだ。

 

 とはいえ、まだ魔王エヴァが安全とは思っていない。

 エルルの元へ案内してもらえるみたいだが、目は離さないでおこう。


 そのとき、“電車”が大きく揺れた。

 

 驚いたのは、身体のバランスがとりづらかったことだ。

 オルトプラスでこの程度まったく問題ない。魔力制限がまったく効いていないんだろう。


 そしてそれは、目の前の赤髪、エヴァも同じだった。


「――大丈夫か」

 

 俺は咄嗟にエヴァの手を掴んだ。かなり細い。

 こいつやっぱりほとんど力がなくなったのか。


「……な、なにを」

「危ないからな」

「……ありがとうございます」


 頬を赤くして、なぜかそっぽ向く。

 なんだ?


「今のみた? 美男美女の熱々シーン」

「見た見た。朝からいいもの見れた」

「二人ともハーフかな? めちゃくちゃ顔整ってる」


 地球の女子生徒だろうか。全員同じ服を着ている。なぜか俺たちを見て微笑んでいた。何がおもしろいんだろうか。

 オルトプラスと感性は違うのか?


 電車を乗り継ぎ、カイサツグチを降りると、エヴァが声をかけてきた。

 なんか様子が変だな。


「どうした?」

「……クロト、いつまで……手を掴んでいるのですか……!」


 そういわれてみると、確かにしっかり掴んでいた。

 だってあの馬車、いや電車かなり揺れてたからな。

 倒れて怪我なんてされたら困るだろう。今からエルルに会いにいくというのに。


「すまんすまん」

「は、はい……それでは行きましょうか」


 だが階段に躓きそうだったので、またもや手を掴んだ。

 魔王って、こんな弱弱しかったか?


   ◇

 

「おいなんだこれは……王城か? エルル、いつのまにこんな偉くなったんだ」


 エルルが住んでいるという家は、エヴァのしっとり壮魔王城とは大きく違った。

 そびえたつタワー。周りには噴水があり、落ち着いた木々も生えている。


 凄いなここは……。


「クロト、今もしかして私のうちと大違いだと思いませんでしたが?」


 そういえば魔王は他人の心が読める魔法が使えたな。まさか。


「いや、思ってないぞ」

「そうですか。でしたら結構です」


 いや、やっぱり使えないみたいらしい。

 エヴァの家より、マジでデカイな。

 俺もこんな家に住みたい。


「やっぱり思ってますね」


 いや、やっぱり使えるのか?


 

 ――ピンポーン。


 インターホンを押す。これで連絡が取れるらしい。

 ここは日本という国で、魔法はないが、代わりに化学が発展してるとのことだ。


 言い方は違うが魔法と似ているらしい。


「――はい。エルルです」

「エルルさん。エヴァです。クロトを連れてきました――」


 ――ガチャ。

 すると、大きなドアが開いた。ひとりでに。


「さて、入りましょう」

「お、おう。なんか緊張するな」


 なにせ三年ぶりだ。泣き虫で大人しい、僧侶エルル。


 そういや、“日本”に来たときにみたあのエルルは何だったんだ。

 エヴァに聞くのを忘れていたな。


 入り口に守衛さんがいた。強固な守りのようだ。

 エレベーターなるものって上へあがる。凄いな化学は。


『七六階です』


 まっすぐすすんで、とあるドアの前で足を止める。


「こちらです。クロト、後で色々話すとは思いますが、エルルさんはずっとあなたと会いたがっていましたよ」

「ああ、俺もだ」


 それから扉を開こうとすると、バンっとエルルが飛び出してきた。


 小柄な白髪、ピンとした耳、ああ、エルルだ。


「ク、クロトだあああああああああ。ホンモノ、ホンモノだああああああ」

「お、おう。落ち着けって」

「うう……会いたかったよお」

「なんだ、何も変わってねえなお前は」

「……ごめんなさい」

「でも安心したわ。でも正直混乱してるんだ。色々教えてくれるか?」

「……わかった。それで、あの……」


 エルルは申し訳なさそうにした。ちらりとエヴァを見る。

 討伐するためにここへ来たのに任務を遂行していない。

 それが俺に申し訳ないんだろう。

 とはいえ、もう流石に理解している。

 俺をエルルの元に連れて行くくらいだ。


「エヴァが人間に危害を加えないことは何となくわかった。だから、大丈夫」

「……うん。ありがとうクロト。――エヴァさんも中に入って入って」

「はい。お邪魔させていただきます」


 入り口には履物がいっぱいあった。

 大人数で住んでるのか? もしや――。


「リーファとウルトスと住んでるのか?」

「一緒じゃないよ。でも、ちゃんと連絡は取ってる」

「そうか。早く会いたいな」


 パッと横を見る。そこに、エルルの――絵が飾っていた。

 エルフ耳、でも、なんか白い衣装を着ている。

 見たことのない派手の。


『新生Vtuber僧侶エルル、今日も元気に撃て撃てにゃんにゃん♪』


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