第3話 しっとり壮
エヴァ・エリアスは、オルトプラスで最も恐れられていた魔王だ。
多くの魔族、魔物を統率し、とてつもない力を誇っていた。
以前はもっと恐ろしい姿をしていたが、今はなぜか人間の姿になっている。艶やかな黒髪で、出るとこは出ている。別に褒めているわけじゃない。ただ形容しただけだ。
これこそが悪魔の象徴であり、ここに悪意が詰まっていると言われていた。だが俺の前に現れたエヴァにはツノがなかった。
「まったく、勇者クロトとあろうものが情けない姿ですね」
「やはり生きていたかエヴァ! 俺の仲間はどうした!」
「どうもこうも、みんな生きてますよ。後でラインするので、大きな声はあげないでください。警察の方々が洗脳から解けると大変なことになりますから」
え? ライン? 新たに覚えた魔法か?
俺一人でこいつをオルトプラスに飛ばせるかわからない。
だがこのチャンス逃すわけには――。
するとエヴァは、呆然とした警察の服に手を入れ始めた。何かを取り出し、俺に近づいてくる。
「クロト、手を出してください。それを外します」
「……なぜだ?」
「ここから逃げるからです。洗脳は長く続きません。応援がくると今度こそ捕まえられますよ。そうなると二度と仲間に会えません。それでいいんですか?」
それからエヴァは手の枷を外してくれた。普通なら何か企んでいるかもしれないと思うかもしれない。
だがそれはない。なぜなら魔王は嘘をつかない。いや、つけないのだ。
それが、魔王に生まれた所以。何人にも媚びることが出来ない宿命である。
「……なら仲間の元に案内してくれ。もし、危害を加えていたりしたら――」
「ほら、行きますよ」
有無を言わさず、俺の手を握る。
まるで人間の手だ。白く、それでいて細い。
色々困惑していたが、空気中に漂う魔力がない事にようたく気づく。
これでは魔法を詠唱できるわけがない。
さらに魔王は魔力を媒体に生きていたはず。
これだけ魔力がなければ力が随分と弱くなってるかもしれない。
外に出た後はとにかく走った。服はエヴァが用意してくれた、平民のような装いだ。
走って走って、とある暗がりの路地で足を止める。
「はあはあ……ここまでくれば、多分大丈夫です……」
「……ああ、てか、随分と疲れるなこの世界は……」
「ですね……」
それからエヴァは呼吸を整えた。よく見ると少し服がはだけている。
人間の姿になっていたことで申し訳なくなり、さっと目を逸らす。
少しして、エヴァが声をかけてきた。
「とりあえず、
「え? うち?」
「はい。ここが私の家なんです。203号室。そうですね。あなたにわかりやすくいうならば、ここが今の魔王城です」
「え、ここが?」
「はい。ここです」
「……ここが?」
「ここです」
眉をピクリとも動かさず、エヴァが真剣な表情で答える。
後ろには、お世辞にもしっかりとはいえない木造の建物が立っていた。
ボロボロの階段。
そして目立つところに『しっとり壮』という看板があった。
「本当にここ?」
「本当にここです」
「マジ?」
「真面目です」
――――――――
ダンジョン配信もありますが、結構先かもです。テンプレとはちょっと違うと思いますが、楽しく見て頂けると幸いです。
良ければフォロー&☆☆☆をお願いします(^^)/
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます