第2話 大魔王エヴァ・エリアス

『エルルをよろしくにゃん♪』


「お、おいエルル!」


 俺の言葉も空しく、建物の上部に映っていたエルルは姿を消していく。

 魔法で映し出されたものなのか?

 一体何が起きているのかわかっぱりわからない。


 いや、それよりも裸はマズイ。この世界のことがわからなくてもそれだけはわかる。

 かろうじて聖剣エクスカリバーだけ持っているものの、これでは危険な男だと思われても仕方がない。


「ちょっと、キミこっちに!!!」


 そのとき、二人の男が現れた。

 蒼い制服。オルトプラスの聖騎士団に似ている。


 面妖な馬車から離れたところに移動させられ、俺はファサッと服をかけてもらった。

 どうやら『地球』の自警団みたいだ。“ケイサツ”と名乗ってくれた。


「キミ、名前は?」

「クロトだ。オルトプラス王都所属。クロト・フォール。魔王を追いかけ、そして仲間を探しにきた」

「外人さんね。オルトプラスって‥‥…どこの国だ?」


 丁寧な自己紹介をしたものの、自警団は眉を顰める。

 わかってもらえるまで、とにかく真実を伝え続けよう。


「で、なんで裸なの?」

「おそらくだが転移窓ワープゲートの質によるものだろう。俺はリーファやエルフと違って未熟だ。途中で術式が崩壊してしまったと考えられる」

「なるほどね。――アルコール検知器は?」

「あります。ええと、お兄さんちょっといいかな?」

「な、なんだそれは?」

「大丈夫。痛くないから」


 国に入っては国に従えという言葉もある。

 謎の物体に息を吹きかけると、自警団はなぜか更に眉をひそめた。


「ゼロっすね……どうします?」

「日本語は通じるみたいだし交番に連れて行くか。所轄には連絡しといたか?」

「はい。もしかして……例の流行ってるアレ、飲んでるとかですかね?」

「どうだろうな。成分検査はちょっと時間かかるぞ。――お兄さん、この剣はどうしたの?」

聖剣エクスカリバーは、七つの竜を倒した後、幻の職人、エドラに作ってもらった。ドワーフだといえばわかるか?」

 

 俺の言葉に、片方の自警団がなぜか少し笑みを浮かべた。どうやら信じてもらえたようだ。

 それから聖剣エクスカリバーなんと手を伸ばして刃に触れた。指から赤い血がでて、叫ぶ。


「いたっ!? せ、先輩っ!? これホンモノっすよ!???」

「な、なに!? お、お前これをどこで――」

「だから七つの竜を倒したあとに――」

「と、とりあえず連れて行くぞ! おい、パト回してこい!」

「はい!」

「いいか、暴れるなよ。クロコ!」

「クロト」


 そりゃ刃に触れたら血も出るだろうよ。一体何を考えてるんだ。


 それから面妖な馬車に載せてもらった。思ってたよりも座り心地がよく、窓から移る景色は綺麗な光で輝いていて、新鮮だった。

 でも頭からウルトス、リーファ、エルルのことが離れない。仲間は大丈夫だろうか。エルルは、あれは、エルルだったよな?


 たどり着いた先は、小さな小屋だった。これが彼らの城か? 随分と小さいな。

 中に入ると椅子に座らせられる。

 だがそこで俺の聖剣エクスカリバーを自警団の一人が奥へ持っていく姿が見えた。


「お、おい何してるんだ!?」


 しかし無視だ。突然豹変するなんて。

 ここから逃げるか? もう少し様子してもいいが……。


「で、ここから真剣な話をしていいかな」


 すると自警団はひょう変したかのように怖い顔つきをした。


「君は銃刀法違反とわいせつ物陳列罪を犯した。この聖剣エクスカリバーはとても危険なものだ」

「……危険? それは邪気を払う神聖なものだ」

「はあ……」

「そろそろこれを外してくれるか?」

「ダメだよ。大人しくしといて」


 俺の手には鎖が付いていた。

 地球の縄みたいなものだろう。敵意がないことを示す為に大人しくしていたが、ここまで時間がかかるとは思わなかった。


「応援、もうすぐ来るみたいです」

「あのヘンテコな剣、念のため鍵付きのロッカーにしまっといてくれ」

「うっす」

 

 どうやら聞く耳も持たないようだ。

 仕方ない。ここから逃げるとするか。


「すまないな。少しだけボーっとするが、すぐ元に戻る」


 そして俺は手を翳した。

 普段はあまり使わないが、魅了魔法チャームマジックだ。

 浴びれば俺のいうことを聞くだろう。


「何してるんだ? 手を降ろしなさい」

「――魅了チャーム


 直後、自警団は目が虚ろに――ならない!?


「漫画とかアニメの影響かあっすかね?」

「かもな。あんまり近づくなよ」

魅了チャーム魅了チャーム魅了チャーム魅了チャーム魅了チャーム魅了チャーム!」

「クロコさん、静かにして」

魅了チャーム!」

「静かに!」


 な、なぜ発動しない!?

 それより思い切り怒られてしまう。


「ちょ、ちょっとまってくれ! マジで俺の聖剣は持って行かないでくれ!」


 くそ、どうしたら――。


「すいませーん」


 するとその時、女性の声がした。

 どこかで聞いた事があるような声だ。

 

「あの、うちの主人がいませんでしたか?」

「主人? ……もしかして、クロトさんの?」

「はい……すみません。日本に来たばかりでまだ慣れてないんですよね。もしかして……裸でした?」

「ええ、そうですけど、何かあったんですか?」

「公園で涼んでいたら噴水に落ちちゃって……すっごい汚くてそれで……脱がしたんですよ」

「は、はい? でもなんで渋谷の交差点に?」

「交差点だったんですか?」

「そうだよ。後ね、聖剣を持っていくなって。わかりますか?」

「聖剣も持ってきているんですね……」

「奥さん、申し訳ないけど銃刀法違反だから色々書類を作らないと――」

「……こんなことでせっかく溜めた力を使いたくなかったんですがね。――洗脳ブレイン

「――え」


 突然魔法の詠唱とエフェクトが発動した。

 すると、足音が近づいてくる。


「まったく。勇者クロトとあろうものが情けない恰好ですね」

「お、お前は――」


 そこに立っていたのは、戦士ウルトスでも、魔法使いリーファでもなく、僧侶エルルでもない。

 だが俺がよく知っている姿と少し違う。

 人間のような風貌になっている。角はなく、長い黒髪だ。

 身長は少し縮んだみたいだが、それでも高い。


 体躯は、以前よりも随分とスラリとしていた。

 なのに、胸は大きい。


「行きましょう。ここにいたら逮捕されて牢獄行きですよ。――勇者クロト」


 彼女・・の名前は、エヴァ・エリアス。


 オルトプラスを恐怖に陥れた大魔王だ。


 ――――――――

 ダンジョン配信もありますが、結構先かもです。テンプレとはちょっと違うと思いますが、楽しく見て頂けると幸いです。


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