異世界勇者は人間界でも無双する。逃げた魔王を追いかけて地球にきたら、なんかしおらしくなってました。
菊池 快晴@書籍化進行中
第1話 げにおそろしき『地球』
「クロト、心配しなくても後はオレたちに任せな。魔王をひっ捕まえたら、即こっちに飛ばすからよ」
強気な低い声で胸に拳を軽く当ててきたのは、戦士のウルトスだ。
短い黒髪、俺と違ってデカイ体躯で頼りがいがある。
「そうよ。むしろ、クロトのほうが心配だわ。私たちは飛ばすだけ、あなたは一人で対峙しなきゃダメなのよ」
隣で微笑んだのはリーファ。水星級の魔法使いで、四属性を操る凄腕でもある。
輝く赤髪、乳白色の肌、そして――胸が大きい。
これは今、多分言う必要がないな。
俺が口ごもっていると、とんっとふとももに何かが当たる。
下を向くと艶やかな白髪が見えた。
「……クロト、私頑張る。だから、次に会った時はいっぱいなでなでして」
彼女の名はエルル。種族はハーフエルフで、小柄だで寂しがり屋だが、世界で最も長けた僧侶だ。
頭も良くて、俺たちの行動の要でもある。
ただ恥ずかしがり屋で、あまり人としゃべるのが苦手だ。
パーティー発足当初もほとんど会話に参加しなかったが、今ではこうやって話してくれる。
そして、俺になぜか頭を撫でられるのが好きらしい。
俺は、ゆっくりを頭を撫でたあと、パーティーメンバーの一人ひとりと目線を合わせた。
「いいか。くれぐれも無茶しないでくれ。今からお前たちが向かう『地球』は、オルトプラスと風土も文化も違うはずだ」
「大丈夫だって! オレ様に任せとけ!」
「ウルトスはまだしも、エルルがいれば安心」
「……みんなの為なら、何でもする」
それからリーファとエルルは魔法を詠唱し始めた。
俺たちは、勇者ご一行と呼ばれて旅に出た。
世界を恐怖に陥れていた、魔王を倒すために。
長い旅路の末、ようやく魔王を追い詰めたのはいいが、奴は苦し紛れに転移窓を開き、異次元の彼方に消えていきやがった。
リーファとエルルが居場所を突き止めたものの、場所はなんと『地球』。
オルトプラスの聖魔法図書館の古い文献にこう書かれている。
――『地球』はとても恐ろしいところだと。
今まで賢者と呼ばれた人たちが転移窓を開き、好奇心にかられて『地球』へ移動した。
しかし誰一人として戻ってきたものはいない。
魔王を放っておくことは簡単だ。でも、もしオルトプラスに戻ってきたら? それに『地球』で暴れていたら?
このまま無責任なことはできないと、満場一致で追いかけることが決まった。
でも……俺だけは残ることになった。
転移窓は魔力を凄まじく使う。ウルトスたちは『地球』に転移した後、『魔王』を探しだし、このオルトプラスに飛ばしてもらう。
『魔王』の魔力は異質だ。俺ならすぐにわかるだろう。
そして次は必ず倒す。
全員で行くこともできるが、もし『魔王』が『オルトプラス』に戻ってしまったら追いかけるのに時間がかかる。
被害を広めないために、これが最善だとなったのだ。
ただ……心苦しい。
もし仲間が戻らなかったら? と、頭で何度も不安がよぎる。
「よし行くぞ。――クロト、任せな」
「クロト、魔王を頼んだわよ」
「……見つけたら、すぐに飛ばすから」
そして俺の仲間たちは
それから――三年の月日が経過した。
「……よし。準備はオッケーだ」
俺はたった一人、魔王城にいた。
リーファとエルルほではないが、ここは魔力が濃く、転移窓を開くことができるとわかったからだ。
「本当に行くのですか。クロト、世界は平和になったのですよ。魔王は戻ってきておりません。ここで、私と――」
「悪いなアメリア王女。俺には大切な仲間がいるんだ。あいつらはまだ魔王と追いかけっこしてるだろう。なら、遅れてもいかねえとな」
「……クロト。言いたくありませんが、彼らはきっともう――」
「いうな。俺は、あいつらを信じてる」
純白なドレスを着た王女が膝を付き涙を流す。
彼女はオルトプラスの王妃だ。俺との婚約の儀を結びたいと国王もいってくれたが丁重に断った。
仲間のために、魔王を斃すために、俺は行く。
きっとみんな俺を待っているはずだ。
――絶対に生きている。
それに俺は一人で行くんじゃない。
腰に携えた
俺は後ろを振り返らず、静かに転移窓をくぐった。
「……勇者クロト、私はあなたをいつまでも待っています。どうか、どうかご無事で」
――――
――
―
頭がぐるぐるする。
竜の背に乗ったときみたいに振り落とされそうだ。
クソ、頭がいてえ。
身体が、引き継ぎられそうだ。
ああ――くそ、服がやぶけ――ちきしょうの――
――ウルトス――リーファ――エルル――!!!
何時間経過しただろう。何日か、何か月か、何年か。
時間の感覚が曖昧だ。
俺は――大勢の人がいる真ん中に立っていた。
「何この人? 裸じゃん」
「はっ、なんか武器もってんぜ」
「でっかい剣だなー。ハロウィンって終わったんじゃなったっけ?」
「外人さんかな? 顔、イケメンすぎ」
人の声がする。なんだかよくわからない音もする。
ブルルル、ポッポー。
地面が冷たい。
バサリと起き上がる。
その瞬間、後ろを振り返ると魔物が大勢いた。
な、なんだこれ。黒い塊だ。
「おい信号赤だぞ!」
「あぶねえぞ!」
「轢かれんぞ!!!」
言葉は……わかる。
けど、なんだ? どういうことだ?
人が乗っている。これは、馬車……なのか?
するとそのとき、デカい板が目に入った。
チカチカと明るい。
そして俺は、言葉を失った。
そこには、エルフ耳をぴょんぴょんさせながら、頭に何か装着し、一生懸命画面に叫ぶ――僧侶エルルがいた。
大人しくて、物静かで、恥ずかしがり屋の――。
『撃て撃て! あーやられたー。はーい、どうもプルライブ所属、新鋭Vtubeのエルルでーす! 異世界で僧侶やってましたー! 治癒魔法が得意でしたが、今はFPSが得意ですよー、バンバン☆ 毎晩19時から配信してるので、よろしくにゃんっ!!!』
「……え? エルル?」
あの恥ずかしがり屋で、人前で喋るのが苦手な!?
『にゃんにゃーん♪ 次のゲームも頑張るにゃーん♪ 僧侶エルルにゃん、よろしくにゃん!』
一体、何がどうなってるんだ!?
――――――――
魔王は次の話で出ます。
是非フォロー&☆☆☆をお願いします(^^)/
お読みいただきありがとうございました。
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