タカギの話

 車は山奥の、空き地に着いた。


 昔三人でよく遊んだ、場所だ。今でもひっそりと祠があるだけで、何も無いところだ。


 「ついたぜ、取り敢えずここまで来れば安心だ」


 「おい、逃げてくるったって何でここなんだよ」


 「ああ、ほらここ懐かしいよな。ここなら誰も来ないだろ?」


 「いやそうだけどよ。それにしたってだよ」


 「まあいいじゃんか。子供の頃は日が暮れるまでここで遊んでたんだ」


 「ああ、そうかよ。まあ今頃騒ぎになってるだろうからな、少し落ち着くまでは身を隠さないとか」


 「ああ、こんなとこで悪いけどな。安全なとこだと思うぜ」


 「それもそうか…」

 古村は車を下り、祠の近くに歩いていく。


 「相変わらずシケたところだよな」

 古村がタバコに火をつける。


 「しゃあねえだろ。俺たちここで育ったんだ」

 辺りは暗闇が支配している。


 月明かりに照らされて、祠が微かに浮かび上がって見える。


 「こんなところにずっといてさ、よくお互い腐らなかったよな。ああ、お前は違ったか」


 「そうだよな、お前達とは程遠いな」


 俺は古村の背後にゆっくり近づく。


 「嘘だよ、冗談だよ」


 そして。


 隠し持っていた紐で古村を。


 「はは、分かってるさ」

 一気に首を絞め上げる。


 「うぐ…アガガガガ……お…まえ……」


 古村は何が起きたのか理解出来ていない様子だ。

 俺は手を緩めない。


 「テメェ下手打ちやがって。テメェのせいで俺も危ねえんだよ。なあ兄弟、大人しく死んでくれねえか」


 「お…まえ……なんで……こんなこと」


 「おいおい、田間宮殺しておいて随分な言いようだな。お前らの非道は遠からずバレんだろう。なんてったってお前が田間宮殺してんだ。嫌でも警察は関係を洗いざらい調べるさ」


 「そ……それじゃ……お前も……」


 「お前は田間宮に裏切られた恨みで殺人を犯して行方不明、それでいいじゃねえか」


 「ク……クソが」


 「なんとでも言えよ。いいか、俺だけは逃げ切ってやるさ。お前らみたいなヤツはな、落ちぶれたらそれで終わりなんだよ。俺は違うぜ、泥水啜ってでも生き残ってやる」

 

 「う……ゔゔ……」

 俺は手を緩めず締め上げた。

 古村はそのまま呆気なく力尽きた。

 

 ざまあみろ。

 

 古村はきっと田間宮を殺しにくるだろう。俺はそう考えていた。

 

 古村が警察に目をつけられたとき、田間宮は真っ先に古村を切り捨てた。関係を示す証拠は全て破棄し、連絡を経った。

 

 粘着質でしつけぇ古村のことだ。きっと復讐を考えるに違いない。そう思っていた。


 こいつが捕まれば、俺のことも売るんだろうぜ。

 今まで散々人をコキ使いやがって。

 

 いつも汚れ仕事は俺だ。

 

 俺を踏み台にして自分の椅子を高くしただけだ。汚い手を使うくせに、汚れるのは俺だけ。ふざけやがって。

 

 会社の役員になれたのは、俺が裏で手を回してやったからだろうが。『お前の力が必要だ』なんて調子のいいこと言いやがって。俺がどんな泥をかぶってきたと思ってんだ。


 俺は、あいつらのために手を汚してきた。汗も血も流してきた。でも、あいつらはその手柄を自分のもんにして、高笑いだ。


 田間宮も古村も、あの笑顔の裏には俺に向ける軽蔑しかねぇ。そんな奴らがのうのうと生きてる訳には行かねえよな。

 

 ああ。心底胸がスッとしたぜ。さて、早いとここいつを埋めにいかないとな。


 この先にデカい木があったな、埋めるにはおあつらえ向きだぜ。

 

 タカギが振り向くと、祠に白い影が見えた。


 なんだ……?


 誰かいる訳なんてない。


 あれは……女か?


 和服を着ている、こんな時間に?


 耳鳴りがする。


 否、赤ん坊の泣き声か?


 嘘だろ、ありえねえ。

 

 ゴンッ!

 

 その瞬間、タカギは後頭部に強い衝撃を受けて前のめりに倒れ込んだ。

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