手を出すなと言われたので足技を極めます
愛飢えお
第1話 ーーー手は出さねぇよ
ーーー父が死んだ。
敵対するヤクザのヒットマンに殺された。
俺の唯一の家族だった。
別に...悲しくはねぇよ、だってそんなに仲良くなかったし。
俺の親父は元格闘家で中堅のヤクザだった。
家は基本俺1人で思い出なんか全然なかった。
でも、なんでだろう?
胸の奥の奥が爆発しそうで、
頭が熱くて、なのに冷たい、
今すぐにでも走りたくなる。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッッ」
いや、走っていた。
俺は走り続けていた。
俺はある、目的地まで。
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病室の窓口から射し込む光は、どこか冷たく感じられた。
淡い夕日がカーテンを染め、まるで何かを隠すように覆い隠している。
ベッドの上には、細くなった手が力なく横たわっていた。
「撃たれたんだって?ザマァねぇな。いつかはこうなるかもって思ってたぜ」
俺は、その手を握りしめる。
ゴツゴツとした大きな手。
傷だらけのボロボロの手。
けれど、その手はすでに温もりを失って いた。
「シキ。もう人様に手を出すんじゃない、人間他人に手を出しちまえばどうせ碌なことないんだよ。だから約束しろ。もう二度と、他所の人には手を出すな」
そう言って、父は死んだ。
その言葉が、今も耳に残っている。
だが、今はもうその声も聞こえない。
病室のドアがそっと開き、看護師が入ってくる。彼女は一瞬、俺に視線を送った が、すぐに沈痛な表情で小さくうなずいた。
「時間です。ごめんなさい」
俺は小さくうなずき、ベッドの側を離れた。
父の体は、もう二度と動くことはない。
それは、彼の心にぽっかりと大きな穴を開けた。
病室の廊下を歩きながら、彼は父の最後の言葉を思い出す。
「約束しろ、もう二度と、他所の人には手を出すな」
なんで手を出しちゃいけねぇのかは俺には分からなかった。
けれど殆ど会話もした事ない親父の、最初で最後の約束は、俺の心に深く刻み込まれた。
俺は典型的な不良だった。
ヤクザの息子って事で学校では虐められて、そいつらボコったら目ん玉輝かせて俺の下に着いた。そっからいろんな悪い奴と喧嘩して勝って、勝って、負けて。
そうして歳月が経っていつの間にか不良グループみたいなのの番長になってた。
でもそんなグループも解散俺はもう他人に手を出せねぇ。
そんな人間が頭張ってる族なんていらねぇからな。
悲しくは、無かった。
別に数年ちょっと連んだだけだし。
それに、今から起こす事に、アイツらを巻き込む訳にはいかねぇから。
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「ッッハァァ!ここか!漸く着いたぜ」
俺は気付けば親父を殺した組の傘下の組織に出向いていた。
此処まで来たら、やる事ぁ一つだ!
「オラァ!糞共!カチコミだ!!」
思い切りドアを蹴って張り倒す。
なんだなんだとドタドタ上から足音が聞こえる。
人数は多い、でも関係ねぇ。
喧嘩上等!俺は親父との最後の約束を思い出してしっかりと腕はガードに回す。
階段から3人の男が降ってくる。
『なんだガキ!此処が何処だk...ガァッッ!?』
俺は能天気にお喋りをしてるソイツにローキックをお見舞いする。
そして体制を崩した頭に軽く踵を落とせば直ぐに最初のはぶっ倒れた。
「馬鹿じゃねぇの?分かってるからカチコミなんだろが!」
俺は叫ぶ。
残りは2人、ずいぶん少数で
1人ぶっ倒したら目の色変えて2人が同時に飛び掛かろうとしてくる。
俺は玄関までバックステップをして通路の幅を狭めた。
こうすれば迂闊に2人がかりでブチギレたアホは襲って来れない。
『このッッガキ!取っ捕まえろ!』
素人の大振り。本気で当たると思ってるのか?
それじゃあ当たるまでにあまりに時間がかかり過ぎる。
俺は容赦なく殴りかかってきたヤクザのキンタマに中断蹴りをかました。
悶絶して倒れてる馬鹿を踏み台に俺は勢い良くダッシュジャンプをした。
「フンッッ」
残り一匹、俺の飛び膝蹴りは綺麗に奴の鼻に命中し、おしゃれな角度に曲がった。
「こんなもんかよおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
俺は叫んだ。そしたら上から舌打ちとビール瓶か何かの割れる炸裂音が鳴り響く。
俺は警戒しながらも階段を駆け上がる。
2階で待ってたのはガタイのいいデブで坊主の刺青まみれ。
如何にもヤクザやってますよ〜とでも言いたげな野郎が割れた酒瓶片手にボリボリ頭をかいていた。
男はドスを効かせた声で俺に言う。
『面倒くせぇ』
「奇遇じゃん。じゃあさっさとぶっ倒れてくれな」
手は出せない。だから脚で決める。
そんな俺の復讐劇はまだまだ始まったばかりだった。
手を出すなと言われたので足技を極めます 愛飢えお @AIUEO_2026
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