第12話 初陣
戦闘の余韻が消え、あるてみすのカフェ内には少し気まずい静けさが漂っていた。息吹が一息ついたところで、ルナが真剣な表情を浮かべて話しかけた。
「息吹、彼女をチームに引き入れるのはわかるけど、正直、大丈夫なの?あの調子じゃまた衝突するかもしれないわよ?」
息吹は一瞬テーブルに視線を落とし、少し考え込んだが、すぐに顔を上げてしっかりとした口調で答えた。
「優里ちゃんが不満や悔しさを持つのはわかってる。でも、彼女はまだ気づいてないかもしれない。負けたことや自分のミスだけじゃなく、自分の本当の力を引き出すことができるかどうかってことに。」
ルナは納得するように頷いたが、少し心配そうな顔をして続けた。
「まあ、あんたがそこまで見込んでるなら私もサポートするけどね。でも、追い詰めすぎないでよ。葵ちゃんみたいな柔らかいサポートも必要なんだから」
息吹は苦笑しながらも真剣な眼差しで応じた。
「もちろん。優里ちゃんが本当に自分の可能性に気づけるよう、僕がきっかけを作るつもりだよ。でも、そのためにはもう少し厳しく接することも必要だと思ってる」
その時、カフェの外から足音が近づき、息を切らしながら戻ってきた葵が二人に報告した。
「優里…すごい勢いで帰っちゃって、追いつけなかった…」
ルナが優しく微笑み、肩をポンと叩いた。
「大丈夫よ、葵ちゃん。あの子は負けず嫌いそうだから、きっとまたここに戻ってくるわ」
葵は少し元気を取り戻して頷いたが、それでも心配そうに尋ねる。
「それにしても、息吹くん…本当に優里とチームとしてやっていけるの?」
息吹は自信ありげに微笑み、少し遠くを見るようにして静かに言った。
「大丈夫だよ。彼女は僕以上にヴァルフロが大好きなんだ。だからこそ、自分の弱点を克服してまた僕に挑んでくると思うよ」
その言葉を聞き、葵も少し安心した表情を浮かべた。ルナも静かに息吹を見守っている。
すると、葵は決心したように言った。
「息吹くんに任せるだけじゃなくて、私もフォローできるようになりたい!私にゲームを教えてよ!」
息吹は優里のことを思い気まずさを感じつつも、葵の頼もしい言葉に微笑んで応じた。
「それじゃあ、そこのPCに座って。まずは戦闘訓練場で練習しようか」
葵が少し緊張しながらPCに座ると、息吹は手慣れた手つきで「エイル」を呼び出し、訓練の設定を整える。そして隣のPCでも「隻牙」を準備し、葵の方に目を向けた。
「エイルの役割はメディック。回復と蘇生がメインの役割だよ。接近戦キャラの隻牙がピンチになったときに素早くフォローできるようにしてみよう」
「わかった、隻牙くんを助ければいいんだね!」葵は自分に言い聞かせるように小さく頷き、画面に集中した。
「まずは回復の練習だ。敵NPCを出すから、隻牙がダメージを受けたらすぐにこのボタンを押して回復してみて。」息吹がキーを指し示すと、葵は息を飲んで準備した。隻牙がダメージを受けた瞬間、葵は指示通りにボタンを押し、エイルが治療スキルを発動。隻牙の体力が回復するのを見て、葵は少しホッとした表情を浮かべた。
「できた!隻牙くんが回復した!」と嬉しそうに報告すると、息吹も頷いて微笑んだ。「いい感じだね。これで隻牙も戦闘に集中できるよ」
さらに蘇生の練習も進める。「隻牙が倒れたとき、エイルが駆けつけて蘇生してくれるのが大事だ。蘇生には少し時間がかかるから、敵に見つからない位置取りも覚えておいてね」
葵は真剣な表情で、敵NPCに倒された隻牙を蘇生させる。隻牙が画面で立ち上がるのを見て、葵は笑顔を見せた。「蘇生もできた!」
「完璧だよ。隻牙が無事に戦場に戻れるのは、エイルがいてくれるからだ。」息吹が優しく励ますと、葵は自信を深めたように満足げに頷いた。
「これなら私もチームの役に立てるかも!」
葵の初仕事は大成功だった。息吹の的確な指導に励まされ、葵も次の戦いに挑む決意を固める。
「それじゃあ、次は実戦に行こう。葵ちゃんは盾を構えて陣地を占領することだけを考えてね」
「わ、分かった!」葵は緊張しつつも意気込みを見せる。
試合がマッチングされると、画面にはそれぞれ味方チームと敵チームが表示される。
葵は少し緊張した面持ちでつぶやく。
「これって、相手も本当に“人”なんだよね。不思議な感じ…」
「そう、オンラインゲームの醍醐味だね。機械じゃなくて本当の人が相手だからこそ、戦術や行動の幅が無限にあるんだ。」息吹も頷く。
「なんだか優里が夢中になる理由、少しわかる気がする」
葵は微笑みながら答えた。
戦闘が開始され、葵の「エイル」は敵と対峙するが、やや動揺し思わず立ち止まってしまう。
「葵ちゃん、まずは近くのA地点に向かおう!」
葵は息吹の指示に従い、駆け出してA地点へ到着すると、すでに息吹や仲間たちが待機していた。
「人数が多ければ多いほど、占領スピードが早くなるから、まずはその中に入って一緒に占領しよう。」みんなで協力してA地点を無事に確保できた。
「よし、次はC地点だ。このゲームでは中央のC地点を取るかどうかで勝敗が決まることが多いんだ。B地点は味方に任せて、僕たちはC地点に向かおう」
「でも、C地点ってことは…相手も来てるかも?」
葵が少し不安げに尋ねると、息吹は微笑む。
「その通り、C地点は激戦区になりがちだから、覚悟しておいてね」
「うん、わかった。」
葵は操作にドキドキしながらも、盾を構えつつ息吹の後についていく。
C地点にたどり着くと、すでに敵チームが陣地を守っているのが見えた。
「敵がいるね。葵ちゃん、盾を構えて進んで。僕はその後ろにいるから」
「ええ…怖い!」と葵は驚きながらも盾を構え、ゆっくり進み始める。
敵が気づいて銃撃を浴びせてくるが、盾のおかげで葵のHPは減らない。
「すごい、これが盾の力…!」
「でも、盾にも耐久力があるから無敵じゃないよ。ここまで来れば十分だ」
息吹はそう言うと、盾の後ろから飛び出し、刀で敵を切り捨てた。
「まずは一人!」
別の敵がそれに気づき、息吹に銃口を向ける。
「遅い!」息吹は素早くナイフを投げ、その敵も倒すことに成功する。
「息吹くん、もう一人敵がこっちに近づいてくる!」
葵の報告を受け、息吹はナイフを回収しながら次の敵へ向かう。
しかし、すでに敵が銃を構えているのに気づいた葵は「危ない!」と叫びながら、教えられたばかりの回復スキルを発動する。隻牙はダメージを受けつつも回復され、その敵を倒すことができた。
「完璧だよ、葵ちゃん!」息吹は満足げに微笑んで、「これでひとまずは大丈夫だ。味方もB地点を確保し終えたから、こちらに合流してくるだろう」周囲を確認して、敵がいなくなったのを見届けた。
息吹は含み笑いを浮かべながら、「葵ちゃん、僕たちのチームで今、5箇所のうち3箇所を確保している。このまま時間切れまで守りきれば勝てるけど、それじゃちょっとつまらないよね」
「えっ、もしかして…?」葵は息吹の意図を察して顔を見上げる。
「ああ、全部占領して、葵ちゃんの初陣を大勝利で飾ろう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます