第11話 騙し討ち
戦闘後、優里はしきりに髪をくしゃくしゃにしながら、自分に向けてぶつぶつと疑問を投げかけていた。
「奴の回避癖、間合いの取り方、全部頭に入れてたのに…なんであのときスタングレネードなんか持ってたの?おかしい、だってあいつの職種は…」
と、その疑念に納得がいかない様子で、優里は負けを認められないでいた。葵も、そんな優里の普段と違う挙動に戸惑っていた。
「優里、ちょっと落ち着いて?」
葵が声をかけるも、優里はそれに気づかず、さらに深く考え込んでいる。
そんな中、息吹が近づき、柔らかな声で声をかけた。
「優里ちゃん、さっきの戦い、どうしても気になるみたいだね」
その言葉に反応した優里は、息吹に向かって鋭い視線を向け、勢いよく立ち上がりながら詰め寄った。
「あんた、アサルト一択だって言ったわよね? なのにどうしてサポーター専用のスタングレネードなんて持ってるのよ!あれはデバフアイテムで、サポーター専用装備じゃない!」
優里の鋭い指摘に、一瞬驚いたような表情を見せた息吹だったが、すぐにニヤリと微笑みながら応じた。
「だから、言ったじゃないか。俺にもデータがあるって。優里ちゃんが僕を研究していたように、僕も同じように研究していたんだよ。自分自身の弱点をね」
「自分自身の弱点ですって?」
優里は驚きの表情を見せた。常に敵の弱点を探り、その隙を突くのが彼女のスタイルだった。それが、この息吹は自分の弱点をあえて研究していたというのだ。
「確かに君の言う通り、僕の弱点は一定の距離を保たれたり、狭い路地で回避が難しい状況に追い込まれることだ。それが一番苦手なんだよ。だから、どうすればそれを克服できるか考えた結果が、サポーターとしてスタングレネードを持つことだったんだ」
「でも、あんたはアサルト一択だって言ったじゃない!」
優里はさらに詰め寄るが、息吹は軽く笑って応えた。
「優里ちゃん、意外と純真だね。言った時から、情報戦は始まってたってことさ」
「えっ!?」
優里は驚きで目を見開く。
「ブラフだったってこと?」
「そう、戦闘スピードが早いアサルト一択って言っておけば、君は慎重にならざるを得なかった。。サポーターだとスピードが少し落ちるから、隙を見せるわけにはいかなかったけど、今回のように狭い場所で追い込めば、逆に優位に立てる」
優里は息吹の言葉を聞き、彼が昨日とは違う戦術を採っていたことを思い返した。
「確かに、昨日の戦い方とは違ってた…」
手榴弾を投げ返され、最小限の動きで物陰に隠れる彼の動きが、すべて計算されたものであったことに気づく。
息吹は静かに続けた。
「まあ思わぬ誤算は君が昨日のプレイヤーだったことかな。正直、車の爆発には焦ったよ。でもおかげで余裕を見せた君を狭い路地裏に誘い込むことができた」
「つ、つまり…全部狙っていた!?」
息吹は頷き、静かに語りかける。
「敵を知るより己を知れ、ってね。僕は自分の弱点を一番よく知ってるからこそ、その対策ができたんだよ」
彼の言葉が優里の胸に響き、自分の戦い方に対する疑念が膨らんでいく。
その時、優里は「帰る!」とあるてみすの扉を勢いよく開けて出て行った。
「待ってよ優里!?」
慌てて追いかけようとする葵を見送ると、ルナが息吹に向かって咳払いをして口を開いた。
「息吹ー!ちょっと優里ちゃんに言い過ぎなんじゃない?」
ルナは心配そうに言うが、息吹は気まずそうに肩をすくめ
「悪かったよ。でも、本気出さないとやられそうだったんだ」と返す。
それを聞いたルナは、息吹がゲームでここまで熱くなるのが珍しいことを思い出しながら、少し微笑んで尋ねた。
「まあ、あんたがムキになるのもわかるけど…それで、彼女をチームに加える気持ちは変わらないの?」
息吹は真剣な表情で頷く。
「もちろんさ。彼女はまだ精神的には若い部分もあるけど、そのプレイヤースキルは…正直、俺が知る誰よりも恐ろしい。たぶん、ヘルにも匹敵するレベルだと思う」と自信を込めて言った。
それを聞いたルナは肩をすくめながら「息吹、次はもう少しソフトに接しなさいよ。女の子相手なんだから」と小声で囁いた。
息吹は少し笑って頷きながらも、その眼差しには新たな決意が宿っていた。
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