第9話 はじめてのヴァルフロ
葵の言葉に一同は静寂が包まれていたが、それを打ち破ったのは店の店長ルナだった。
「なぁんだ!てっきり大会参加者と思ってたけど、初心者さんだったのね。でも、安心して!私がみっちり教えてあげるわ」とルナは手をたたき、葵をPCの前に座らせる。
優里と息吹も興味津々で、葵の後ろから画面を覗き込んだ。
ルナはヴァルキリーフロントの基本ルールや操作方法を簡単に説明し、葵にゲームキャラの作成を勧めた。
「ゲスト用アカウントだから、誰でもキャラメイクを楽しめるわよ。葵ちゃんにそっくりなキャラにしましょうか」と言うと、ルナは葵の顔を見ながらキャラメイクを始めた。
「すごい…本当に私そっくり」と驚く葵。画面には、まるで彼女がそのままゲームの中に入ったかのようなキャラクターが映し出されている。
「じゃあ次は職種を選ぶわよ」とルナは言い、ゲームの攻略ページを開く。
「このゲームにはいろんな職種があって、それぞれ戦い方が違うの。エインヘリヤルという覚醒状態になると、特定のスキルが大幅に強化されるわ」と、ルナは各職種とそのエインヘリヤル効果について説明を始めた。
アサルト:「アサルトは前線での攻撃役で、戦場の中心に立つの。エインヘリヤル時には火力が倍増して、前線を切り開く力が大幅に上がるの」
デモリッシャー:「デモリッシャーは重火器の使い手よ。爆破物や機関銃を駆使して、拠点を制圧するのが得意なの。エインヘリヤルになると爆破や貫通力が増して、扉や障害物を破壊できるのが特徴ね」
メディック:「味方の回復や蘇生ができるのがメディックの特技よ。エインヘリヤルでチーム全体を回復させるのも得意だから、後方支援が活きるわね」
そして最後にルナは、サポーターについても触れた。
サポーター:「サポーターはちょっと特殊で、チーム全体の強化や弱体化スキルを駆使するの。エインヘリヤルになると、敵の動きを鈍らせたり、味方の移動速度を上げたりできるから、戦況を一気に有利に持っていけるわ」
優里は「サポーターか…確かに、戦況を支配できるのは強みよね」と興味深そうに聞き入っていた。
葵は「なんだか難しそう」と悩んだ顔を浮かべ、「実は、こういうゲーム自体初めてで…敵を倒すなんて無理そうだし、足手まといにならないかな?」と心配そうに言う。
すると、ルナがすかさず「このゲームの良いところはね、敵を倒さなくても貢献できる役割があることなのよ。だから、葵ちゃんにはメディックがぴったりね!」と勧めた。
優里も「メディックがいると生存率がぐっと上がるし、敵を倒さなくてもチームにとって頼りになるわよ」と同意する。葵は少し安心した様子で「それなら私でも役立てるかな?」と笑顔を見せた。
しかし、武器選択で問題が発生する。葵はアサルトライフルやスナイパーライフルなど、一通り試してみるが、どれも的に当たらない。
「ごめん、銃で狙うの、やっぱり苦手かも…」と申し訳なさそうに言う葵に、優里とルナは顔を見合わせ、少し考え込んだ。
「さすがに大会には厳しいかな…」と優里は内心で思ったが、息吹は何か考えがあるようだ。
「優里ちゃんの職種は?」と息吹が尋ねる。
「私はアサルト。といっても一応全部できるけど」と優里が答えると、息吹も「へぇ、僕もアサルト一択なんだ」と笑う。
占領戦を軸とするヴァルキリーフロントでは、オフェンス役とディフェンダー役が必要だ。優里と息吹がオフェンス役に回るならば、残りのメンバーは拠点を守るディフェンダーが求められる。
「ならさ、もういっそ極端に考えればいいんだよ。敵を倒すことじゃなくて、守り切るっていう方向でさ」と息吹が提案し、優里も「それならあの武器があるわね」と気づいて、葵の画面を操作する。
優里は「防弾シールド」を選び、葵のキャラの前に大きな盾が表示される。
「盾?」と不思議そうに聞く葵に、優里が説明する。「万能じゃないけど、一定のダメージは防げるわ。横からの攻撃には弱いけど、生存率はぐっと上がるから、これで拠点を守ってほしいの」
「なるほど、それなら私にもできそう!」と、自分にできる役割を見つけた葵は、少し嬉しそうにうなずく。
ルナが画面を切り替えて「さあ、ここからが大事よ。キャラ名を決めるわよ!これがキャラに命を吹き込むの。慎重に決めてね」と言うと、葵はまた悩み始めた。
葵は「優里のキャラ名、教えてくれない?」と尋ねると、優里は「フレイヤよ。北欧神話の女神の名前なの」と答える。
それを聞いた葵は、スマホで北欧神話を調べ「医療の女神エイルって名前もあるんだ」と目を輝かせる。
「それ、エイルにしようかな!なんか可愛くない?」と葵が微笑むと、優里も「確かに響きがいいね」と納得する。
すると、葵が「そういえば、優里、フレイヤって名前、神話の意味に『生の奔放』ってあるけど…優里って意外にむっつり?」と冗談めかして言った。優里は吹き出しながら「違!いや、確かにそう書いてあるけど…語呂がいいからってつけただけ!」とあわてて弁明する。
それを微笑ましく見ていた息吹が、「フレイヤ…?」と小さく反応した。優里に「なんで?」と聞かれた息吹は、「なんか聞いたことがある気がして」と答える。
優里は「私も有名だからね」と少し誇らしげに思ったが、このあとすぐに、その理由が別にあることを知ることになる。
ルナが「じゃあ、これでキャラ完成よ。このままゲームで遊んでみる?」と聞くと、葵は「優里がどういう感じで戦うのか見てみたい!」とリクエストする。
「私の? 別にいいけど」
と、謙遜していうが、実はさっきから人の画面を見て早く自分もやりたいとうずうずしていたのだ。
あれ、そういえばと息吹の方を見る。
「あんた、片腕でどうやって操作するの?」と、息吹の右腕に目をやる優里。FPSでは通常、左手で移動、右手でエイム操作が必要だが、息吹には右腕がない。
息吹はニヤリと笑い、「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。僕には秘密兵器があるのだよ」と、後ろから小型のヘッドバンドを取り出し、装着した。
PCに接続されるそのデバイスを見て、優里は驚愕する。
「まさか…脳波コントローラー!?」
葵が「優里、知ってるの?」と尋ねると、「脳波でゲームを動かせる機械があるって聞いたことがあるわ。でも、相当な熟練度がいるのよ。あんたに使いこなせるの?」と疑う。
息吹は「論より証拠。優里ちゃん、僕と1対1で勝負しようか?」と微笑む。
「いいわ、あんたの実力を確かめさせてもらう!」と応じた優里が息吹のキャラクターを見ると――
「隻牙…?」
あの時、優里を打ち負かした因縁のキャラクターが、画面の中に再び現れていた。
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