第7話 転校生の存在
星海学園に新たな転校生が加わったものの、授業は至っていつもの日常だった。
ただ、体育の授業で男子はバスケットボールの時間になると、転校生への周囲の目の評価が徐々に変わり始めた。
「おいおい、マジかよ。あいつまたゴール決めやがった」
「あいつのガードから抜けたのって、バスケ部のディフェンスに定評のある田中だよな。信じられねえ」
転校生は、片手のドリブルでガードを難なく抜け出し、どんな遠くからでもボールをゴールにシュートすることができる。
特に、連続して決まる3ポイントシュートにはバスケ部の連中も顔が真っ青だった。「なんだ、あいつ!」と、男子たちが驚いている様子が見て取れる。
「あの言動さえなければ、バスケ部に誘うんだけどなぁ…」
しかし、黙っていればいいものを、シュートする度に
「ボールを相手のゴールにシューッ!!超エキサイティン!」と叫ぶので
周囲からは「ウゼぇ・・・」という声が上がる始末だった。
さらに、彼はパスを回さずに一人で解決してしまうワンマンプレイをするので、味方からの評判は次第に悪くなっていく。
優里は、彼の超エキサイティンに対してウザいと思ったが、彼の一人で問題を解決する姿勢に少し共感を覚えた。
自分もヴァルフロで似たような経験があるからだ。
授業が終わり、教室に戻ると、隣にいる転校生が「どう?俺の超エキサイティン見てくれた?」と、明るい声で聞いてきた。
優里は「うぜえ」と思ったが、バスケットボールの実力には少し感心した。
「バスケ部に入るの?」と尋ねると、転校生は少し悲しそうな顔をしながら「いやぁ、僕にはそんな余裕ないから」と答える。
しかし、すぐに明るく笑顔になり、「それにスポーツ全般は前から得意なんだ。俺はバスケだけの男じゃないわけよ」と言った。
周囲からはバスケ部を敵に回しそうな発言に「チッ」と聞こえてきた気がするが、優里には関係ないと無視することにした。
その時、優里はふと思い出した。
彼にドクペをかけられたことがあり、次に会ったら許さんという思いがよぎる。
「そういえば、ドクペをお前にかけられたんだった!死ねやぁあああ!」と、優里は息吹の胸元を掴む。
「えええ!なんのこと!?」と突然の豹変ぶりに慌てる息吹の姿に、クラス一同は驚きの表情を浮かべた。
葵もその一人で、「えっ、大丈夫、優里?」と声をかける。
冷静になった優里は「ちょっとこっち来なさい」と、息吹を屋上へ行く階段のところに連れ出した。
「普段なら、告白のシチュエーションだけど、そんなんじゃないよなぁ」と残念がる息吹。
「当たり前でしょ、てかあんた昨日とキャラ違くない?」と、優里が問いかけると
「いやぁ、ちょっと事情があって、急遽4人友達ができないといけなくてさぁ」と答える。
「なぜ?」と尋ねると、息吹は渋りながら「実はこのFPSの大会に出ないといけなくてさぁ」とチラシを持ち出した。
「えっ、なんであんたがそれを持っているのよ」
それは優里も目指していた「ヴァルキリーフロント」の公式大会だった。
「実は叔父が店長やってるネットカフェのバイト先で宣伝のためにお前出ろ言われてさ、でも友達いないって話したら、こうすればすぐに集まるってアドバイスもらってやってんだよ。僕も初めはあんな集まるわけでないだろと思ってたけど、とりあえずいい案浮かばなかったら実行しただけで…」と説明する。
優里は「むしろ逆効果よ」と冷やかな目で見た。
「だよなー、どうしよう」と不安そうに息吹は呟く。
その問いかけに、優里は決心した。
「私、出るわよ、これ」
「えっ、マジで?出てくれるの?その日下部さんはこのゲーム知ってるの!?」
知ってるも何も、深夜までこのゲームをプレイし、今朝方はこれが原因で机にうなだれていたのだ。
「たぶんだけど、クラスの中では一番うまいと思うわよ」
優里は自信満々に答える。
「いやぁ、それはツイてるなぁ。そうだ、ついでにあと3人友達か連れていきてくれない?」
「と…友…達…?」
息吹の発言に優里は口ごもる。むしろ3人も友達連れてきてほしいのはこっちの方だと。
息吹はそれを察したのか「いやいや、無理にとは言わないよ!日下部さんだけでもとりあえずは十分だから」と気遣いしてくれるが、その気遣いに優里は心の痛さを感じる。
「んじゃ、放課後に俺のバイト先に案内するよ。ゲームのプレイ環境は整ってるからさ」
といっても、ソロで限界があると感じていた時に、その息吹の申し出に彼女はありがたかった。
あとの3人のプレイヤーは未定だが、大会に出るとなるとそれなりの実力のプレイヤーを集めることができるだろう。
ただ問題があるとすれば、この男の実力はどのくらいなのかだ。
「ねえ、そういえばあんたはこのゲームは上手いの…?」
優里は息吹に聞くと、「よくぞ聞いてくれました!」と息吹は胸を張る。
「実は昨日の深夜にも…「ちょっと、待ちなさい!」僕が今しゃべってるでしょ!?だれ!?」
息吹の自慢話を遮ったのは、ポニーテールの女子だった。
「私もそのバイト先に連れていきなさい!」
一部始終を聞いてたであろう、葵の姿がそこにあった。
「ハハ…ハァ…」
面倒事になってきたなと半笑いとため息しか出ない優里であった。
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