窓に小狐
丸みのあるマグカップの縁に口をつけ、熱いコーヒーをゆっくりと流し込むと、やっと心が緩まる心地がした。
やわらかなソファに身体を預け、もう一口と思ったとき、ふと窓に目がとまった。
壁いっぱいに大きく空いた窓は、オレンジ色のロールスクリーンが裾近くまで下されていた。私が目をとめたのは、そこに外の植木の影が鮮やかに映し出されていたからだった。
晴れていればこんなにもくっきりと映るものかな、と感心していると、植木の中から小狐の影がひょっこり顔を出すような気がした。本物の狐ではない。人形だろう。幼い頃、そういう劇を観たのかもしれない。私は随分久しぶりに影絵という言葉を思い出した。
しかし頭の中の小狐は木の影から出てきたきり、何の芝居もしなかった。どんな話なのか、誰と観たのか、思い起こそうとするけれども、それらは記憶の底で澱に沈んでいた。
そうしているうちに、植木の影はロールスクリーンからすうっと消えてしまった。日が陰ったのだろう。
私は口元で止めていたマグカップを傾け、もう一口をすすった。舌の上にほろ苦さが静かに広がった。
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