シリウス

 最寄駅に着く頃には、午後十時を回っていた。

 人気のないホームに降りると、冬めかした風が身体の奥にまでみるようだった。

 ロータリーは夜の淵に沈み、ひっそりとしていた。待合のタクシーがないので、仕方なく私は歩いて帰ることにした。

 国道沿いをとぼとぼと歩いた。追ってきては先へ遠ざかる自動車やオートバイの騒音を片耳で聞くともなしに聞きながら、ふと空を見上げると、透き通るような一面の濃紺の裾に、ひときわ輝く白銀の一点があった。明滅を繰り返すその星は、自らの存在を私に教えるかのようであった。

 星は、私の老いた歩調に合わせるように、ゆっくりと夜空を進んだ。電線の隙間を縫いながら、どこまでも寄り添ってくるように感じられた。思わぬ道連れに励まされた私は、この壮大なる並走を楽しんだ。

 しかしトンネルを抜けた頃には、私の方が速くなってしまった。

 遥か遠くのものと繋がれたと思っていられたのも、つかの間であった。

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