第2話-慣れない戦いには勝てたけど-
ゴブリンに侵入されてしまったのは居住区画。路地裏も広場もあるけれど、狭い所だと弓は戦いにくいから気をつけないと。
悲鳴の聞こえる方向に急ぐ。上からも、後ろからも、どこからでも襲われそうで怖い。だからティーブがゴブリンを見つけてくれたときは、胸が少しだけ軽くなる。
「ファニー様。ゴブリンを見つけました」
「本当?どれくらいいるかな?」
「申し訳ありません。確認できたのは10体ですが、他にまだいるかはわかりかねます」
全部わからないのは、しょうがないかな。ティーブなら10体くらいは倒せるんだけど、どうしよう。まだちょっとだけ心の準備ができていないけど、ゴブリンに襲われている悲鳴が鳴りやまない、この先にあるのは広場だから弓は有利なはず。怖がっているときじゃない。
「行きましょ。1人でも多く、助けなきゃ」
「かしこまりました」
ティーブが飛び出す。今まさに住人を襲おうとするゴブリンの首を刎ねる。私も続いて
矢を引き絞って、狙いは動きを止めているゴブリン。放った矢を最後まで見届ける。大きく弧を描いて真っすぐ飛んで、ゴブリンの額を貫通した。
額を貫いた1体がゆっくりと地面に崩れ落ちる。だけど隣のゴブリンが、血走った目で叫びながら走ってくる。早く次の矢を、ダメ間に合わない。
戦わなきゃ、でも今は逃げなきゃ。後ろに下がりながら、弓に矢を番えようとする。目の前の短剣を振り回し不気味に笑いながら突進するゴブリンから逃げることはできず、かといって反撃もできない。
「うぉぉぉぉ」
駆けつけてくれたティーブが剣を振り上げた。ゴブリンの首が飛び、目の前が血の色で赤く染まって視界がぼやける。目を拭いて前を見ると、そこにあったのはティーブの大きな背中。
「ご無事ですか?」
「う、うん」
動悸が止まらない。なんだか息苦しい。よく見ると、数体のゴブリンの死体が広場に転がっている。もうこんなに倒しているなんて、10体くらいは倒されている。私、これじゃぁただの。ううん、まだこれから。私だって、戦えるんだから。
まだたくさんのゴブリンが広場に残っている。死体と同じ、10体くらい。矢を番え、再び放つ。当たるまで見ている暇はない。次の準備を。
放った後すぐに次の矢を番える。弓を引き絞って、もういつでも射れる。ティーブが前に出て戦ってくれている。こっちに来たゴブリンは3体だけ。私だって、戦うんだ。
3体とも不気味に笑いながら走ってくる。一番前のゴブリンに狙いを定めて放ち、すぐに次の矢に手をかける。よし、ちゃんと当たってる。あと2体。
でもこのままじゃ近寄られちゃう。あと1体はなんとかなるんだけど、その間に詰め寄られちゃう。こういう時はきっと、下がっちゃいけない。
矢を放ち、細剣を抜く。矢は額に命中して、残りは1体。ゴブリンは両手で短剣を持って飛び掛かってくる。細剣で狙うのは喉元。あんまり得意じゃないけど、1体くらいなら。
細剣はゴブリンの喉元を貫き、返り血を全身で浴びる。だけどそんなことより、短剣が刺さっている右肩が痛い。でも倒せたし、これでみんなを守れたかな。
「ファニー様。遅くなり申し訳ございません」
「ううん。だいじょう、イタ」
ティーブが駆け寄ってゴブリンを引き剥がしてくれる。ゆっくりとやってくれたけど、どうしても右肩が痛い。耐えきれなくって、膝をついて、息が苦しい。
「ファニー様。こちらを」
「え?あっ、うん」
手渡されたのは丸められた布切れ。これって、つまり、ここで抜くってことだよね。
「抜きます。力を抜いてください」
「っ、ゔっゔぅぅぅぅぅぅぅぅ。がっ、あぁ。はぁはぁ」
もう、ダメかも。私、戦いに来たのに、こんなんじゃ。まだ残ってるかも。でももう
右肩が、右腕が動かない。痛み止めかな?ティーブがなにかを塗ってくれていて、だんだん痛みが消えていく。
「申し訳ありません。持ち合わせがコレしかないものでして」
「はぁはぁ。うん、しょうがないよ。ふぅぅ。ゴブリンは?」
「広場にはもういません。何体か路地に逃げたようです。いかがしますか?」
そっか、逃がしちゃったか。どうしよう。私はもう限界。ティーブだけで追いかけてもらいたいけど、きっと反対するだろうな。
「城に、戻りましょ」
「かしこまりました」
悲鳴はもう聞こえない。聞こえてくるのは、泣き声や痛みに耐える声、そしてちょっとだけの歓声。もっと早く、もっと多くの人を助けられたら歓声とかあったのかな。だけど、出来ることはちゃんとやったはずだから。なんだかちょっと、眠い。
ゴーン。ゴーン。ゴーン。
その鐘の音で眠気が吹き飛んで、背筋が凍った。鐘の音の意味は、城が襲われているということ。
「どうして。門はどうなったの?」
「申し訳ありません。わかりかねます」
「戻らなきゃ」
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