第3話-そして、開けてはいけない扉へ-
痛む右肩のせいで上手く走れない。どうして、城が襲われているの?門が突破されちゃったら、違う鐘の音が鳴るはずだよね。急いで戻らなきゃいけないのに、痛みで走れなくなって、だんだん歩けなくなって、そして立ち止まる。
「ゔっうぅ」
ダメだ。なんだか頭がぼんやりする。立っているだけでツラい、眠い。ちょっと、無理しすぎちゃったかな。
「ファニー様。お休みになりますか?」
「はぁはぁ。休みたい、けど。でも、戻らないと。ふぅぅ。今の城には、戦える人が残っていなかったでしょ?」
「はい。戦える者は全員、門の防衛をしております」
「ふぅ、ふぅ。だよね」
どうしよう。大丈夫だって思っちゃってたけど、これじゃ城に戻っても戦えないし、足手まといになっちゃうかも。
「ねぇ。ティーブだけ城に戻って、みんなを助けてくれない?」
「それは、いたしかねます」
「ダメ?」
「はい。ファニー様から離れないようにと言付かっておりますので」
やっぱりダメか。絶対に私から離れるなって言われているみたいで、昔からどんなにお願いしても聞いてくれなかった。ティーブとはもっと友達みたいになりたいんだけど、これじゃただの従者みたいで嫌だな。
「ちょっと休憩する。痛み止めはまだある?」
「かしこまりました」
ティーブが痛み止めを塗ってくれる。少しは楽になったけど、こんなの気休め。それにしても、ガーダンか。褐色の肌に黄緑色の髪、それに角。人間じゃないっていうのは知ってるけど、たまに心配になっちゃうくらい素直に人の言うことに従うんだよね。
「どうしてもダメ?」
「何がでしょうか?」
「私を置いて城に行って欲しいの。ほら、こんなんじゃ戦えないし」
「申し訳ありません」
も〜。ちょっとくらい、お願い聞いてくれてもいいのに。それに一緒にいるならいるで、言付かっているからとか言わないで、心配だからとか言ってくれてもいいのに。
「じゃぁ私は城に行くけど、良い?」
「かしこまりました」
しょうがない。ティーブの負担が増えちゃうけど、私が行けば着いてきてくれる。1人でもゴブリンと戦える人が増えたほうが良いと思うし、それに痛み止めのおかげで楽になった。右腕は、もう動かせそうにないけど。
痛み止めもたくさんあるわけじゃないみたい。だから、行くなら早く行きたい。でも走ったらまた肩が悪化しちゃう。あそこで怪我しなかったら、こんなにゆっくり歩くこともなかったのに。城までの帰り道が、とても長い。
「あれって、まさか」
城から黒い煙が立ち昇っている。何を意味するのかなんて、言われなくてもわかっちゃう。もう時間がない。右肩のことなんて気にしていられない。走らない方がいい、それはわかっているけど、もっと、もっと速く歩かなきゃ。
◇
やっと着いた城は、黒い煙でほとんど形が見えない。石でできた城の窓からは赤い炎が溢れていて、もう半分近く燃えちゃっている。
こんなことになっているなんて。悲鳴が全然聞こえない。想像したくないことばっかり頭に浮かぶ。いや、そんなことない。きっと、みんなで集まって守りあっているんだ。例えば、王様のところで。
「玉座の間に行きましょ」
「かしこまりました」
半分も燃えてるんじゃない、まだ半分しか燃えていないんだ。まだ火のないところからなら、玉座の間まで行けるはず。そこに集まっているっているかはわからないけど、集まっているならそこしかないし、それにまだ燃えてない。
玉座の間までの見慣れた廊下。なのにいつもと違って見える。そんなの当たり前だよね。まだ燃えてはいないけど、煙が多すぎる。なんだか息がしづらいし。でもあと少し、あと少しでみんなのところに行ける。
「みんな!!無事!?」
勢いよく開けた扉の先には、真っ赤な光景。物音ひとつ聞こえない。たくさん人がいるのに、誰も動かない。扉の近くには戦いの痕跡、その先には豪華な服を着たまま積み重ねられたたくさんの人、一番奥の玉座には王様の死体。私の、お父さんの死体。
「国王様?お父様!!」
駆け寄ろうとして、滑って転ぶ。大量の血が、床中に広がっている。たくさんの死体、お父さんの死体、子供の頃に見たお母さんの綺麗な死体とは違う、血だらけのヒドい死体。
「ファニー様。立てますか」
「う、うん。そうだね。まずは立たないと」
遅かった。城から離れなかったら、こんなことにならなかったかもしれないのに。怪我さえしなければ、間に合ったかもしれないのに。
「誰も、助けられなかったのかな」
「いえ。1人連れ去られたようです」
「ほ、本当!?まだ生きてるの!?」
「申し訳ありません。生死については不明です」
それならまだ。たった1人だとしても、このまま放っておけない。まだ、私にもできることがある。
「追いかける」
「かしこまりました。こちらです」
ティーブが先導してくれる。1人だけ連れ去ったゴブリンを追いかける。玉座の間を出て、階段を下りて、下りて、ひたすら下りて。
そして着いたのは、一度だけお父さんに、王様に連れてこられた場所。開けてはならないと言われている場所。ただ扉があるだけなのに広くなっている場所。
地下の扉の前。
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