妖精さんだ! って、私も妖精か 2/2

「…」

【ねえ、ヒマリだったわよね。どうかしたの?】

「あ、ごめんなさい。あなたを撫でてたら、前世の家族たちのこといっぱい思い出しちゃって…」

【…残念だけど、戻れないわよ】

「ううん。たとえ戻れても、もうみんないないから。みんな寿命や病気、事故でお別れしちゃったの」

【それは仕方ないわね。ヒマリは妖精種なんだから、こっちでもみんなを見送る立場よ。覚悟しておきなさい】

「うん。妖精種になることを決めた時に、それは覚悟したよ。でもあなたとは友達になってもいい?」

【そうね。このあたりは私のテリトリーだから、ここに住んでる限りは会えるわね】

「あ、そうなんだ。私は住んでもいいの?」

【草食動物いたぶったり、森を焼き払ったりしなければね】

「そんなこと絶対しないから! ただ、果物食べたりはすると思う」

【生きるために食べるんだから、それは当然よ。まあ妖精種は食べなくても生きていけるけど、食べ物摂った方が元気になるしね】

「うん、そうする。ところで…ウサギさんって呼ぶのも変だから、名前教えて」

【名前のある妖精なんて少ないわ。普通名は無いの。だから好きに呼びなさい】

「じゃあルナさんで」

【それでいいわ。だけど敬称はやめて。この世界じゃよほどのことが無いと敬称なんて付けないから】

「そうなんだ。じゃあルナ、森にいたウサギは大きかったのに、どうしてルナは普通サイズなの?」

【それは私が妖精種だからよ。妖精種は、体内の魔素を高密度化して魔素保有量を上げるの。だから自然と、動きやすい本来のサイズになるのよ】

「へえ、そうなんだ。…あれ? じゃあ私、ひょっとしてこのサイズのままなの?」

【魔素を高密度化しなければ、大きくはなるわよ】

「…それって成長じゃなくて、ただ大きくなるだけ?」

【そうよ。妖精種の母体から生まれた子どもは半妖精だから成長するけど、ヒマリはもう完全に妖精化してるから、その恰好のまま大きくなるわね】

「なんてこったい! 大人になれない!!」

【ある程度レベルが上がれば、肉体は変化させられるわよ。人がウサギになったりは出来ないけど、大人の身体くらいなら変化させられるわ】

「絶望の後に希望が!!」

【妖精種にはレベルがかなり上がってなれるものだから、魔物を倒し続けてもそうそうレベルは上がらないけどね】

「上げて落とされた! 希望が遠い!」

【まあ、頑張れば数百年くらいでしょ】

「単位が三桁年数!?」

【ヒマリ、反応が面白いわね。もう妖精種になっちゃったんだから、地道に頑張りなさい】

「あう、希望があるだけましか…。ところでルナは、石造りの塔ってどこにあるか知らない?」

【ああ、あそこに住むのね。その大木の裏側よ】

「ガーン。ずっとこの近く探してたのに!」

【大木に囲まれてるし、ツタや苔で覆われてるから見つけにくいわよね。魔素感知使いなさい】

「え、魔素感知?」

【周囲の魔素濃度の違いが判別できるから、視線通らなくても木や建物が分かるわ。何かの接近にも気付けるから、常に魔素感知してた方がいいわよ】

「妖精種なら最初からそういうの分かるかと思ったんだけど、練習が必要なのね」

【違うわよ、ヒマリが使ってないだけよ。目を閉じて、周囲の魔素を把握してみなさい。飛ぶ魔法が使えるなら、魔素は把握出来てるはずだから】

「………おお! これは便利かも。大木の裏の塔まで分かる!」

【目と同じように、無意識でも使えるように慣れなさい。それじゃ、そろそろ行くわ】

「え、もう行っちゃうの?」

【何泣きそうになってるのよ。時々見に来てあげるから、そんな顔しないの】

「…はい。最後にひとつ質問なんだけど、ルナの声が頭の中で聞こえるのはなぜ?」

【ほんと今更よね。これは念話よ。動物系の妖精は、身体が元のままの構造だから言葉を話しにくいのよ。だから念話を使うの。魔素感知で相手が特定出来たら、感知エリア内なら念話できるようになるわ】

「そうなんだ。魔素感知、頑張る」

【そうね。それじゃ、またね】

「はい。また今度」


挨拶してルナと別れ、魔素感知でルナの反応追ってみたんだけど、すごいスピードで移動してすぐに私の感知圏外へ。

飛ぶ速さってレベル依存みたいだから、ルナって結構レベル高いんだね。


塔に戻ってホッと一息。

魔素感知で周囲の地形とか覚えておかないと、この森では迷子になりそう。

しばらくお出かけは、塔の周りだけにしよう。



お茶休憩しようとキッチン周りを探ってたら、色々出て来た。

劣化しやすい物や持ってて便利な物は、異空庫に仕舞った。

まだ私の異空庫は箱馬車くらいのスペースしか無いけど、これも要練習で広がるみたい。

異空庫内は時間経過しないから、劣化しやすい物は入れておこう。


続けて家探ししてたら、地下の食品庫見つけた。

冷蔵の魔道具で冷やされた、三畳程度の空間。

小麦粉やら干し肉やらが並んでた。

そして、大きなリュックに入ったままの食料も、みっちり詰まってたよ。


これ多分、研究者さんが病気で倒れた時に配達人が持って来た物資だろうな。

食料庫にまで入ってるから、配達人は貴族家の使用人たちなのかな。


物資持って来て食品庫に仕舞おうとしてたら、他の配達人が研究者さん倒れてるの発見して、慌てて物資を放り出し、研究者さん担いで戻ったってとこか。


そういえば二階と三階にもリュック置いてあったから、あれは研究用の資材や着替えなんかが詰まってるのかも。

漁っておこう。


往復100kmもの道のりを徒歩で配達に来るんだから、途中で野営とかも必須。当然野営道具も持ち運んでたはず。

しかも魔物がいる森だから、当然護衛も必要。

物資補給は、かなりの団体さんで行ってたのかな。


女神様はこの塔は放棄されたって言ってたから、ありがたく残ってる物資は使わせていただこう。


ただね、いくら家探ししたって幼女用の着替えはあるはずない。

だから着替え作らなきゃ。


綿のシーツや裁縫道具を見つけ出し、チョキチョキチクチク。

紐パン四枚作った。

補充物資の中にシャツがあったので、改造してワンピース二着出来た。

森に出るならズボンも欲しいけど、作るの大変そうだから明日にしよう。


気付いたら、外は真っ暗。

大木だらけの森の中なので、日中でも塔の中は暗い。

照明代わりに光球浮かべて作業してたから、全然気付かなかったよ。


寝る前にお風呂入りたいけど、この塔にお風呂は無い。

キッチンの横に足洗い場みたいなのがあったから、あそこで身体を洗ってたのかな?


うむ、お風呂も欲しいぞ。

明日はズボンとお風呂づくりだな。


三階に上がって寝ようと思ったんだけど、ベッドでかいしシーツが黄ばんでて寝ころびたくない。

一階の隅に立てかけてあったアンティークなシェーズロングソファー。埃被ってたのをきれいにして魔法使って三階まで上げ、新品のシーツ畳んで角型シュラフみたいにして寝ました。

紐パン一丁で。

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