妖精さんだ! って、私も妖精か 1/2


おおよそ塔の中は見て回ったので、いよいよこの世界とご対面です。

これまた鉄で頑丈に補強された分厚い木のドアをなんとか開けて、外に出てみた。


……………まじか。

地面は一面にコケが生えてた。

これは湿気の多い森ならありそうだから、まあよし。

だけど周りに生えてる木、でかすぎだよ。

これ、ジャイアントセコイアより大きいんじゃないか?


塔ってさ、普通は何かを監視するための建物だから、周りの木より高いはずだよね。

なのに私がいた三階建ての塔が、木の傍の石の祠みたいにちっちゃく見える。

サイズ感や遠近感がおかしくなるよ。


そしてあちこちに生えてるシダ類。

見てくれはシダ類なんだけど、大きさがおかしい。

なんか街路樹っぽい大きさなんだが…。

ゼンマイみたいなのは私の背の数倍あるし、シダっぽいのにバナナの木みたいな高さ。


ここってハ〇メイとミ〇チの世界ですか?

私より大きな虫とかいたら、怖いんですが…。


塔の周りをふよふよ飛んで探索してみたんだけど、塔の立地条件がすごかった。

日当たり、ほぼありません。

なにせ森の木々が高くてはるか上の方に枝や葉がいっぱい茂ってるから、お日様ほとんど見えません。

首都圏外郭放水路のような森の大木横に、石灯篭でも置いたみたいなサイズ感です。

その中に住めちゃう私って、完全に小人だよね。


頑張って飛んで木の上に出てみたんだけど、周囲三百六十度すべて森。

某テレビ番組も真っ青の、アクセス用の小道すらない森奥のぽつんと一軒家(塔だけど)。

研究者さん、よくこんなとこに住んでたな。



そして周辺探索の結果、この森、植生も変だった。

ぱっと見は植物を巨大化させた熱帯雨林なんだけど、生えてる植物が変。


バナナの横にリンゴなってるし、屋久杉みたいな巨木の隣にバオバブみたいな木が生えてる。

大きなシダの横には夏ミカンサイズのいちご生ってたし、ブドウ、桃、キーウイ、オレンジ、パッションフルーツ、茄子、トマト、メロン、パイナップルなどなど。

もうね、探せば探すほど色々な果実や野菜が出て来るの。しかもみんなでかい。


まあ、全部でかすぎるから、地球の物に似てるってだけで、実際は全く違う種類なのかもしれないけど。


あとね、動物もたくさんいた。みんなサイズおかしいけど。

ウサギ、私より大きかったよ。

リスやモルモットで同じくらいの背丈、ハムスターには勝った。

…なんの勝負だよ。


ただ不思議なのは、肉食や雑食の動物が見当たらなかった。大型の草食動物も。

もしいたら、私なんて丸飲みにされそうなサイズなんだろうなぁ。


それはそうと、私の住まいとなる塔は、いったいどこに消えたの?

私って方向感覚や空間認識力は結構よかったはずなのに、塔が見当たらない。

おかしいな、この辺にあったはずなのに…。


【あなた、さっきから同じところばかりぐるぐる回ってるけど、ひょっとして迷ったの?】

「うわ! びっくりしたぁ~」


突然うしろから声を掛けられて驚いて振り返ったら、空中に浮くライオンラビットがいた。

ほぼ真っ白で、目の縁と耳だけキャメル色の、体長30cmくらいの美人さん。

ただし、背中に二対の半透明な翅生えてるけど。


「うわぁ、すごい美人なライオンラビットさん。おっと、初めまして。私は日葵です。あなたは妖精さん?」

【褒めてくれるのはうれしいけど、あなたも妖精なら私が近づいて来たの分かるでしょ。なに驚いてるのよ】

「え、そうなの? 私妖精一日目だから、よく分かんない」

【幼児の初級妖精なんていないはずなのに…。しかも一日目って、あなたひょっとして転生者?】

「あ、バレた。転生者って、言っていいのかな?」

【…バレないようにしなさい。人間にバレたら、知識よこせって追いかけ回されるわよ】

「やっぱりかぁ…」

【ところであなた、私のことをライオンラビットって呼んだの? この世界では私含めてみんなウサギ呼びなんだけど、あなたのいた世界では違うの?】

「ウサギは種族名で、その中で色々な特徴別に分かれて名前が付いてたの」

【へぇ、そうなの。ところで、そのわきわきしてる手はなんなの?】

「あ、ごめんなさい。前世であなたみたいなライオンラビットとも同居してたから、思わず撫でたくなったの」

【乱暴にしないなら、別に触ってもいいわよ】

「わーい!!」


ウサギさん、近付いて来てくれたので、そっと腕に抱いてもふもふもふもふ。


「この滑らかでふわっふわな手触り、懐かしい」

【懐かしいって、一緒に住んでたんじゃないの?】

「頑張って生きてくれたけど、十一歳でお別れしました」

【十一歳って、すごいわね。この世界では、ウサギは七年くらいしか生きられないわよ】

「ちゃんと高齢ウサギ専用に配合された食べ物があったからだと思う」

【高齢ウサギ専用の食べ物をわざわざ作ってるの? すごい世界ね】

「前の世界は動物を家族として迎える家も多かったから、専用の食べ物もたくさん売ってたの」

【たくさんって…とんでもない世界ね。この世界では、食べ物なんて自然の素材をそのまま食べるのよ。あ、でも人間は料理してるわね】

「…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る