第30話

 ある貴族の屋敷。深夜になってもその部屋では二人が言い合っている。


「サム。その手はちょっとまたないか?ふむ。たしかに潔くないな。


 しかし、まとめて取られてしまうと悔しくてしょうがないのう。」


「ガルディ隊長。気持ちはよくわかります。自分も幼いといえる子供にコマ、じゃない石をとられたときは表情に出ないように腹に力をいれて、歯をくいしばりましたとも。はっはっは。」


 現在謹慎中の近衛隊の隊長であるガルディは男爵の爵位を持つ貴族である。騎士といえば脳筋の人間が多そうなイメージもあるが、貴族の護衛など務めたりする近衛は、どうしても身分の高いものがおおい。


 必然教養も求められるからであるが、最近流行っているリバーシについてもある程度の腕前まで求められる。


 ゲームであるから面白いし、他に娯楽がまだ少ない世界でもある。貴族の間ではあっという間に広まった。


 同じ近衛隊の隊長と副隊長は仲が良く、サムも男爵の嫡子であり将来は男爵になる予定だ。身分も近く二人は仲が良い。


「しかし、これだけ強くてサムが32キュウとは、その子供はどれくらいなのだ。」


 ガルディは現在謹慎中ではあるが、実態としてはレーナ様をよく守ってくれたといわれており、のんびり休暇を楽しんでいるようなものだった。


 ところが暇でしょうがない。さすがに外へ遊びに行くわけにもいかず、そのあたりの事情をしっているサムが仕事帰りに遊びに来ていたのだ。


 二人はリバーシを楽しむ間でもあったので、サムは早速ジーオーを教えて遊ぶことにした。やはりガルディも頭が良いようでルールは覚えたものの、9路盤で3子で負けたときには悔しくてしょうがない。


 あっという間にはまってしまい。1子まで迫ったものの、そこからどうも上がらない。


 その強いサムをして、5子置いて勝負になる子供がいると聞けば驚くしかない。


「ああ、聞いて驚いたんですけど、2キュウというクラスだといわれましてね。つまり俺の30レベル上なんですよ。たはは。」


「何!レベルで30だと。うーむにわかには信じられんの。ん?その子はどうして2キュウだとわかるのだ。」


「おお、さすが隊長はいいところに気が付きますね。実は俺もその疑問がでたので聞いてみたんですよ。


 ジーオーには納めるべき技があり、それを実践で使用できるかどうかでまずキュウが決まるとルールを定めたそうです。


 ですから、今は2キュウが必ずしも3キュウに勝てるとは限らないそうですが、ジーオーの遊ぶ人が増えたら、自分を基本として上下をきめていくと言ってましたね。


 つまり彼と同等なら2キュウ。彼にハンデ1で勝てれば6クラス上の5ダンという、上級クラスということらしい。


 ただし、この盤は専用のものではなく、入門用であり、実際はその専用のもので遊び判定されるべきだ。といっててですね。


 いやはや、その子はゲームの申し子か天才ではないかと考えているんですよ。」


(ヒロの偽りの設定である。いつか広めるために嘘八白ではあるが、ストーリーをかんがえていたらしい。)


「なんと。これは入門用であるか?して、本来はどのようなものだと言っておる?」


「彼の想定ではリバーシサイズが9*9なら、中級が13*13。本来なら19*19だそうです。しかし彼にはつても資本もない。ま、孤児院なら当然の話ですけど。」


「なに。このゲームの次とその次があると。ふーむ。サム?」


 サムはにやりと笑って答える。


「はは、当然遊んでみたいと思いましてね。聞いたその足で知り合いの商会へ依頼をだし、大至急で二組づつ発注をかけましたとも。


 それで彼に聞いたんですが、リバーシのコマだとわかりにくいので、黒と白にわけたほうがいいらしく、まさにそのとおりだったのでそのように注文してきました。


急ぎでもあったので白のコマ、いや、石は無着色になりそうといわれましたけど。

(この国のリバーシは、どうやら黒白でなく、片面黒で裏は木地らしい。)


 ただ、物が準備できたとしても、肝心の遊び方の方がですねぇ?どうしたものかと。」


 実はサムはガルディ隊長には事情を説明してある。報告義務というものは簡単にごまかしてはいけないし、相談しても大丈夫だろうとわかっていたのもある。


 ただし、恩人の危惧もあり伯爵には報告していないし、そこまでの詳細な報告義務がない。大丈夫だろうと二人の見解だ。


「ふむ。珍しいスキルの事を隠しておきたい冒険者だったな。たしかに幼く、初心者の冒険者であれば貴族とのつながりがどう出るかわからん。むしろ指摘があってそういえばと思いついたくらいだ。その子は頭がいいな。


 そうだな。なにか安全に接点をつくるとするか。


 おい、だれかベスターを呼べ。商会のキーンに声をかけ、急ぎ冒険者へ指名依頼をかけてもらおう。」


 二人はすでにジーオーの虜になりつつあったのだ。

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