第29話


「副隊長、何かお探しですか?・・・この広場に怪しいやつでもいるとか?」


 サムは伯爵領の近衛隊副隊長をやっている。先日伯爵の3女のお嬢様が、父の代理として重要な書簡を王城へ届け、その返答の書簡を持ち帰る伯爵依頼遂行の護衛をしていた。そう、ヒロに助けられた騎士だ。


 帰りの道中で魔狼の群れに遭遇した護衛隊は、魔狼は問題なく討伐したものの、どうやら近くにワイルドベアの子供がいたようで、一緒に討伐した。


 この子供を探しに来たのか森の奥からでてきたワイルドベアの親が激怒。つがいだったもので強力な魔物2匹の出現に、護衛隊は大混乱になった。


 ワイルドベアはC級魔物ではあるが、こんな森の外へでてくるような魔物ではない。しかも子供を殺されて逆上しており、危険度はB級近くなってしまっている。


 護衛隊の隊長が雄の強い方の相手をし、副隊長のサムが雌のやや弱い個体を相手にしようと体制を整える前に2匹は護衛隊に突っ込んできたのだ。


 混乱の中、護衛対象の3女レーナ・レドモンド嬢のいる馬車を強襲された。


 この強襲で、レーナ達は馬車を捨てて逃走。サムが護衛しつつ対応していたがとにかく雄のワイルドベアが強く、隊長を含めほとんどの兵力をそちらへ集中。


 サムは、もう一匹の雌のワイルドベアに対応しつつ、レーナ達と逃げまどっているうちに、負傷者だらけとなり、最後はレーナとサムだけが護衛隊を大きく離れてしまったとういわけだった。


 伯爵はレーナが無事にもどり、領の任務を無事成功させたことには安堵したものの、護衛隊の不手際もあったとして、責任者に一定の罰を与えた。


 隊長は一時謹慎。副隊長のサムはしばらく近衛隊から領内の警備隊へ出向としたのである。


 レーナはこれに強く反対し、父親である伯爵を困らせたし、伯爵も罰したいわけではなかったが、これだけの被害があって賞罰なし、というわけにはいかない。


 体面的には罰を与える形にし、本人たちには口頭にて感謝を述べるにとどめた。


 そうゆうわけで、サムはたまたま噴水広場を見回る事になっているのだが、先日の冒険者ならいつか街で会えるのではと注意もしていたのだ。冒険者ギルドにもよりたかったが、相手の思惑を察して偶然の再開を装いたかった。


「ふむ。すまんがおまえ達はあちらの裏通りをみまわってくれないか?そこを終わったら詰め所にもどっていい。おれはしばらくこのあたりをみてから戻る。


 ああ、裏通りに問題が無かったら買い食いくらいはゆるしてやる。」


 やったーとか、ありがとうございますとかの声を後ろに聞きながら、サムは後ろ手を振りつつヒロ達に近づく。


 ・・・・・


「え?あ、あれ?勝ったとおもったのに。」


 ああ、わかるよ。中盤まで黒のほうが勝勢だったからね。


「途中まで黒のが良かったぜ。最後のつめ、えーとヨセっていうんだけどそこで失敗したんだ。でも、おしかったよ。」


「そっか。うー勝ってたからなんかくやしい。ヒロ、もう一度って、えーとどうしたの?」


 俺は多分あの時の騎士が近づいてくるのに気が付いた。


 まあ悪い事したわけじゃないし、相手も怒ってるとかそんな風に見えないうえに、一人だけだ。気配りのできる人だね。


 俺はリリーに向かって目くばせをして口に手をあてて、しばらく黙っているように伝えた。リリーはわかってくれたようだ。


「仲良く遊んでいるところ、ちょっといいか。ちょっとそのゲームの事で聞いてみたくてな。」


 うん?・・・。あーなるほど。こちらがあの時会いたくない意思表示をしたので、あの話をそちらからする気はないってことだな。


 しかし、頭もいいし配慮もありがたいな。


「これは騎士様。なんなりとお聞きください。」


「ほう?見たところ冒険者のようだし、まだ小さいのに礼儀がしっかりしているな。


 いや、そのゲームはリバーシだろう。俺も知っているし貴族では大会があるほどに有名ではあるが、市井ではまだまだこれからだったと思っていた。


 ところが君のような冒険者で若い子が遊んでいるとは驚いたんだ。


 最初はどうしようかと思ったが、何故か遊び方がリバーシとは違うようだな。俺もリバーシはちょっと自信があってな。興味もあるし、よかったらその遊びも教えてくれないか?


 あ、いや、悪いようにはしない。そうだな?こうゆうのはどうだ。


 その遊び方がおもしろかったら褒美をだすぞ。そしてその時に君らの事はだまっておく。俺が考えたことにしてもいい。多分いきなり有名にはなりたくないだろう。


 もしその遊びが流行れば、その場合相応の金額を追加でだそう。」


 おや、面白いことになったな。騎士様の提案は実に俺の危惧をわかっている。


 しばらく相手の目をみて、人間性と考えている事を確認する。どうやら全部わかって提案しているようだ。助けた礼もしたいんだろう。


 よし、確かに囲碁は広めたいし、この人は信頼できるだろ。


 と、その前に。


「騎士様。なにせ私たちは下賤の生まれです。気にされないなら言葉遣いを崩しても大丈夫でしょうか?そうですか、では。


 サムさん?っていうんだね。これはジーオーっていう俺達が考えたゲームだ。ちょっと簡単に説明してこっちの女の子と実際にやってみせるからみてな。」


 サムさんは、本当にゲームが好きなようで演技でなく興味を持って聞いてくれた。

 しかし、いきなり指導なんかするわけじゃない。すると。


「リバーシにそのような遊び方ができるとはな。いや、これは貴族用の盤だとできないタイプもあるから、市井のこれでちょうどよかったな。


 ふむ、おもしろそうだ。ヒロ、ちょっと一戦やらせてもらっていいか。」


 きたきた。思惑どうりだ。


「いいぜ。さて、まずはハンデなしだな。え、ハンデってのは弱い人と強い人の調整ルールだ。ま、やってみりゃわかるって。」


 リリーと代わってもらって9路盤でサムさんと対局。知らない人との初対局はいいね。


「・・・。うーむ。こういっちゃ何だが、ヒロに負けるのは悔しいな。さて、もう一戦したいが?なに?キュウだと。そのような位設定があるのか?


 なに俺は40キュウもあるのか?・・・そうか、弱いクラスの方が最初は数が多いと。


ふっ、まあいい。じゃ一戦たのむぜ。」


 どうも囲碁にハマるタイプだったようで、7子で負けた時の顔は絶対演技じゃない。


 やがて5子までは減るが、ここで丁度位だ。


 認定32級だな。


「さすがにそろそろ戻らないとな。32キュウだと。頑張ったつもりだが、奥が深いな。いや、これはおもしろいぜ。


 そうだ褒美の話だが、なに?いや、それは少なすぎる。


 ああ、大金を持つのが怖いと?よし、じゃあこうしよう。今日の対局の負け分で一局銀貨1枚。10局負けたから金貨1枚だそう。何、聞けばF級なんだろう。冒険者ギルドで預ける事ができるようになっているはずだ。最初は縁がない制度だから教えてもらっていないんだろ。聞いてみりゃいいぜ。


 なに、これからも対局毎に負けたら払うさ。


 それに俺が勝っても、指導料として金はとらん。このゲームを広めたいしな。その分の料金だと思ってくれていい。


 さすがに俺が考えたとはいいにくいが、市井で始まった遊びを改良したくらいにさせてもらおう。キュウの認定もおもしろいしな。


 じゃまた会おう?ふむ、4日に一度休日でここにいると。今は孤児院か。しかし、ほんとに初心者冒険者だったんだな。いや、おどろいた。


 今日は楽しかったよ。お嬢ちゃんも彼氏を取り上げたみたいで悪かったな。これで果実水でも飲むといい。じゃな。」


「は、はぃ・・・。」


 リリーは銀貨1枚を別にもらったようだ。うれしかったようで挙動不審になっている。あんなかっこいい騎士に丁重に扱ってもらって緊張したのか、銀貨がうれしかったのか?


 さて、面白いことになったな。これで囲碁が広まってくれると嬉しいが。


  ※本日の成果

 報酬 100,000G(サムさんありがとう。囲碁広まるといいな。)

 孤児院へ 0G 

 残り 157,000G(△30、000ムチ料金、リリーへはクエストではないので分配なし、いや、リリーが受け取らないんだよ。)

 F級 ヒロ

 G級 リリー

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