第5話:闇の都市、横浜
翔平は新たなキーコードの手がかりを得て、シグマに導かれながらプログラム世界の「横浜エリア」へと足を踏み入れた。
そこは、現実の横浜の面影を残しながらも、完全に異常な空間に変貌していた。
港の倉庫群は崩壊しかけ、街灯にはプログラムの断片が浮遊し、空には巨大な数列が蜘蛛の巣のように絡み合っている。
地面の一部はデータ化して消失し、虚無の空間が広がっていた。
「ここもアンノウン・コードの影響か」
翔平は目の前の光景を見つめながら言った。
その声にシグマが応じる。
「横浜エリアは特に不安定だ。キーコードがこの空間を支えている中心軸になっているため、その崩壊が始まれば現実世界への干渉も加速する」
「ってことは、急がないといけないってことだな」
翔平は深呼吸し、崩れた街並みの中を慎重に進み始めた。
街の奥へ進むにつれ、異様な静けさが彼の全身を覆い始めた。
周囲の空間はまるで息を潜めているかのようだった。
しかし、その静寂の中で、かすかな足音が聞こえてきた。
「誰かいるのか…?」
翔平は足を止め、声の方向に目を凝らした。
すると、霧の中から一人の男がゆっくりと現れた。
その男は、白いコートをまとい、鋭い目つきで翔平を見つめていた。
ただのプログラムではない、その存在感に翔平は身構えた。
「お前は…?」
男は口元に笑みを浮かべながら言った。
「ようこそ、天城翔平。ここまでたどり着いたのは評価してやる」
「俺の名前を知ってるのか?」
「もちろんだ。俺はアーサー。このプログラム世界を監視している者だ」
その名に翔平は反応した。
アーサーという名前は、かつてアンノウン・コードの開発に関与していたプログラマーの中で伝説的な存在だった。
「お前がアーサー…? どうしてここにいる?」
「質問は後だ。お前が探しているキーコードについて話そう」
アーサーの言葉に、翔平は警戒を解かないまま頷いた。
アーサーは港の倉庫群へと翔平を案内した。
そこは他のエリアよりもデータの崩壊が激しく、建物が半透明になっていた。
倉庫の中央には巨大な柱があり、その表面に複雑な数式が刻まれている。
「この柱が次のキーコードの封印だ」
アーサーが指差した先には、明るく輝く球体が柱に埋め込まれていた。
しかし、その球体を覆うようにして黒い霧が渦巻き、異様な雰囲気を放っている。
「ただし、このキーコードを手に入れるのは簡単じゃない。
その守護者は今までのお前の敵とは次元が違う」
「また守護者かよ…」
翔平がため息をついた瞬間、黒い霧の中から巨大な存在が現れた。
それは、今までのバグモンスターとは異なり、完全に人間の形をしていた。
だが、その全身はデータの断片で覆われ、右手には巨大な槍を持っていた。
「こいつが守護者か」
翔平はブレスレットに手を触れ、剣を構えた。
「準備はいいか、翔平。お前がこの力を使いこなせるかどうか、試される時だ」
アーサーの言葉に翔平は頷き、守護者に向かって突進した。
守護者の動きはこれまでの敵を遥かに超えていた。
その槍は鋭く、翔平の剣を弾き返すだけでなく、彼の攻撃をことごとく避けた。
翔平は必死に防御を続けながらも、攻撃の糸口を探していた。
「こいつ、どうすれば倒せるんだ」
「冷静になれ。キーコードの力はお前の中にある。
ただの力任せでは通じない」
アーサーが言葉を投げかける中、翔平は息を整えた。
「俺の中に…力がある?」
翔平は目を閉じ、意識をブレスレットに集中した。
すると、剣が再び光を放ち始め、その形状が変化し始めた。
「これは…!」
剣は大きな弓へと変わり、翔平の手に吸い付くように収まった。
守護者が槍を構えて突進してくる中、翔平は弓を引き絞り、矢を放った。
矢は青白い光を放ちながら守護者に命中し、その体を貫いた。
守護者は一瞬動きを止めた後、徐々に崩れ落ち、データの欠片となって消えていった。
翔平は肩で息をしながら立ち尽くし、崩壊した守護者の残骸を見つめた。
その中央に、輝くキーコードが浮かび上がった。
「これが…キーコードか」
翔平は慎重に手を伸ばし、それをブレスレットに吸収させた。
その瞬間、腕に新たな力がみなぎるのを感じた。
「お前は思った以上にやるな」
アーサーが微笑みながら言った。
「次の手がかりも、俺が教えてやる。お前にはまだやるべきことがある」
翔平は彼の言葉に頷きながら、新たな決意を胸に秘めた。
次の試練が、既に近づいていることを感じながら――。
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