第3話:最初のキーコード

翔平はシグマに導かれ、歪んだプログラム世界の内部を歩いていた。

空間は絶えず変動し、建物や道がまるで液体のように形を変え続けている。

数字や記号が空中を漂い、見慣れたはずの都市の風景が非現実的なものに変わり果てていた。


「この場所はどうなってるんだ。まるで悪夢だ」

翔平は足元を見下ろし、地面に浮かぶコードのような光の線を避けながら歩いた。

シグマは前方を進みながら冷静に答える。


「ここはアンノウン・コードが作り出した仮想空間だ。

本来、この空間は管理データの調整のために存在していた。

だが、お前が放棄したプログラムの不完全性が、現実を歪めた」


「俺のせいだとでも言うのか」

翔平はその言葉に反発を覚えたが、心の奥底では自分が関与していることを否定できなかった。

数年前、彼が関わった開発プロジェクトは極秘裏に中断され、以降、誰もその行方を知る者はいなかった。

そのプログラムが、今こうして現実世界を侵食しているとは想像すらしていなかったのだ。


「次の地点だ」


シグマが立ち止まり、腕を振ると、目の前の空間が波打つように変形し、巨大な門が出現した。

門の中央には数字の羅列が刻まれ、その周囲には異様なエネルギーが渦巻いている。


「これは何だ」


「最初のキーコードだ」

シグマの声は低く響く。


「アンノウン・コードを修正するには、この世界に散らばる複数のキーコードを回収する必要がある。

その一つがこの門の奥に存在している」


翔平は門を見上げながら、手にしたブレスレットを握りしめた。

「ここを通るだけでいいのか?」


「いや、そう簡単ではない。キーコードの周囲には、プログラムの守護者が存在する」

シグマの言葉が終わるや否や、門の前に突如として黒い霧が渦巻き始めた。

その霧の中から姿を現したのは、人型のバグモンスターだった。

全身が不規則に崩れたデータで構成され、鋭い爪が異様に長く光っている。


「またこいつらか…」

翔平は身構えたが、内心では恐怖を抑えきれない。


「バグモンスターはこの空間の不安定さを象徴している存在だ。

だが、お前の持つブレスレットがあれば倒せるはずだ」


シグマの指示を受け、翔平は震える手でブレスレットに触れる。


「頼む…力を貸してくれ!」

その瞬間、ブレスレットが青白い光を放ち、翔平の身体を包み込んだ。

その光はまるで意思を持つかのように翔平の手元に集まり、形を変え始める。

次の瞬間、彼の手には光で作られた剣のような武器が現れた。


翔平は驚きながらも、その剣を握り直した。

バグモンスターが低い唸り声を上げながら迫ってくる。


「迷うな。攻撃しろ」

シグマの声に押されるように、翔平は剣を振り上げた。

その剣は彼の意思に反応するかのように光を放ち、バグモンスターに直撃した。

モンスターの身体が崩れ始め、周囲に飛び散るデータの欠片が空間を覆う。


「よし…やったのか?」


翔平が剣を下ろすと同時に、モンスターの影は完全に消え去った。


門の奥に進むと、そこには輝く光の球体が浮かんでいた。

その光は優しく脈動しており、まるで翔平を待ち構えていたかのようだった。


「これがキーコードか」

翔平は慎重に手を伸ばし、その光を掴む。

するとブレスレットが再び反応し、光の球体を吸収した。

その瞬間、彼の腕から脈動が伝わり、身体全体に力がみなぎる感覚が広がった。


「これで…修正が始まるのか?」


「いや、まだ始まりに過ぎない」


シグマは冷静な声で告げた。


「キーコードはまだ複数存在する。全てを集めなければ、アンノウン・コードの完全な修正は不可能だ」


翔平は深く息を吐き、決意を新たにした。


「分かった。次のキーコードを探しに行こう」


彼の目には、不安の影と共に新たな希望の光が宿っていた。

アンノウン・コードの謎を解き、世界を救うための旅が今、本格的に始まったのだ。


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