第27話 MA-1

冬になると、MA-1を着て会社に行く。


かつては白迷彩だったMA-1。


洗濯のせいだろうか、元色が分からないほど、ひどく紫立ちたるMA-1。


清少納言が見たら、思わず筆を取ったに違いない。



そんな僕のMA-1が昨日、会社の電気ストーブに当たって溶けてしまった。


右袖に桃色の花が咲いたようだった。



家に帰ると母が「まだ着れるじゃん」と言った。


母よ、さすがにこれ以上は無理じゃないか。


MA-1はもう限界なんだ



「ありがとう、MA-1。さよなら、MA-1」と心の中で呟き、ついに変色したMA-1をゴミ袋に入れた。


ゴミとなったMA-1を見つめ、しばし別れを惜しむ。



さて今日は、どのMA-1を着ていこうかな。

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本気と建前 @omuro1

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