第16話 (877文字)

仕事で、山奥の町にある文化財を調べてほしいと頼まれた。


ネットでいろいろ調べてみたが、小さな町の文化財を調べるのには限界があった。


ふと思い出したのは、バイクでふらっと立ち寄ったことのある、小さな集落の図書館のこと。


そこには確か、ごくごく地元の郷土資料コーナーがあったはず。



現場が早く終わった日、上司と同僚と僕の3人で、その図書館に寄ることにした。


上司は「コミック版・運命のZ計画」を、にこにこと嬉しそうに持って来て、黙々と読み始めてしまった。


僕と同僚は、こういう調べ物が好きで、ドキワクでたくさんの本を読み漁っていた。


そんな中、ふと目に留まる資料があった。



それは、僕の苗字と同じ名前の遺跡。


しかも、その遺跡の場所は、地名のあざまで父の実家と同じだった。


まさかとは思ったが、地図には確かにあの家特有の地形が描かれていた。


間違いない。


父の実家は、縄文遺跡だ。



家に帰って、父に尋ねてはみたものの、「知らんなぁ」と素っ気ない。


ふむふむ、これが縄文人の末裔の答えか。


それでも、あの地が縄文遺跡だという僕の確信は揺るがない。



僕は、他県の博物館まで足を運ぶ程度には、縄文土器に興味がある。


弥生顔の母には「何がいいの?」と、呆れられている。


それでも、後輩や友人、そして今回の同僚とも、再三三四、縄文土器を見に行っている。


みんな、目を見張り、心を奪われたかのように、感嘆の声を漏らす。


縄文土器は僕にとって、友情を育む上でも馴染みがあるものなのだ。


やはり、僕には縄文の血が色濃く流れているに違いない。



そのことを母に伝えると、「あんたぁ、いっつも何でもかんでも好きって言ってるじゃん。そんな奴の言うこたぁ、当てにゃぁならんなぁ」と一刀両断。


その瞬間、「確かに!」と、僕は思わず声を上げた。


広く浅くが僕の興味の信条で、嘘でも本当でも面白ければ何でもいいと思っている。



しかし、統合基盤地理情報システム(GIS)にも載っているし、父の実家が縄文遺跡であることは、県もが認める確固たる事実。


白日の下の真実より、いつも適当吹いている息子の戯言の方が、母にとっては現実味があるのだろう。

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