第17話 シーナ川

話をしているといつの間にかシーナ川の河原に付いていた。

ヨークに案内された場所は川が大きくカーブしていて川の手前側は河原が広く反対側は青々とした森がせり出している。


辺りを見回すと釣りをする人や川で泳ぐ子供たち、河原で何かを焼いて食べてる人たちがいた。


ライトも釣りに適した場所に移動して大きめの石をひっくり返して釣餌を探す。

ヨークは石の下を見ないように少し離れていった。

ヨークは釣りが苦手というよりこの餌が苦手のようだ。


ライトは針に餌を付けて水面に投げる。

チャプンと音を立て餌が水中に入って行く。


「わー魚が沢山いるヨ」

隣で見ていたヨークが言う。


その瞬間、ライトの竿がしなる。

ちょっとびっくりしたようにライトが竿を引くと水面から魚が上がってくる。

ライトは竿を立て魚を引き寄せて河原に向けて竿を置く。



ピシピシと河原で跳ねる魚をヨークがむんずと掴みナイフの背で頭を叩いている。

「小さいイシナだね、こうやって〆るんだヨ」

「ヨーク、手際いいね」

「子供の頃、弟とよく釣りしたからだヨ」

話を聞くとヨークは結構、釣りに詳しかった。


小さいイシナはよく釣れるけど大きいイシナは中々つれない。

ユユは川を移動しながら釣る。

川の上流に行くとカワメが釣れるけど、結構遠いらしい。

逆に川下に行くと池がありそこではナナイロマスが釣れるらしい。


「どれが美味しいの?」

ライトが聞く。


「どれも美味しいヨ」

これくらいの大きさなら塩焼き、もっと大きければソテーやスープ、小さければカラアゲだそうだ。


「たくさん釣らなきゃ!」

ライトのテンションが上がる。


川には魚が目視できるくらいいたので釣果は順調に出ていた。


ライトが大小10匹程度のイシナを釣ったところで一旦終わりにしてヨークと昼食を食べることにした。

もちろん朝に買ったクレプだ。

ライトはヨークにケモモのクレプを渡し、自分も鹿肉のクレプをマジックバックから取り出す。


「ライトのバックは凄いね、このクレプ、出来立てみたいだよ」

ヨークに言われライトは説明する。

ライトのマジックバックは時間遅延が付与されているので出来立てに近い状態のクレプを食べることができる。


「良いバックだから狙われないように気を付けてね」

「師匠が僕だけの使用制限も付与してくらてれから他の人は使えないんだけどね」

そんな話をしながらライトは鹿肉のクレプを齧る。


「美味しい!これ!」

ライトは頬っぺたにソースを付けながら声を上げる。

ソースは甘味と酸味がクリーミーに混ざり合い肉の臭みと野菜の味を調和してくれている。


ヨークはポケットから布を取り出してライトの頬っぺのソースを拭きながら

「これも美味しいから食べてみてヨ」

と自分のクレプをライトの顔の前に持っていく。


ライトは大きく口を開けてケモモのクレプにガブリと齧りつく。

口の中が一気に甘くなるが最後にケモモの酸味がスッキリとさせてくれる。


「ありがとう!これも美味しいね」

ライトは満面の笑みをヨークに向けながら自分のクレプをヨークに差し出す。


一瞬、躊躇するヨークをライトは目で促す。

ヨークは口を小さく開けて鹿肉のクレプを少し齧る。


「うん、美味しいヨ」

ヨークが恥ずかしそうに口を押さえながら目を逸らす。

その姿にライトはドキッとしてライトも目を逸らしながら自分のクレプにかぶりつく。


2人は微妙に目を逸らしながら自分のクレプを食べるのだった。



昼食を終え、日も随分と高くなり夏の暑さもあり河原では水浴びをする人の姿が多くなってきた。

よく見ると、浅瀬を歩いて渡り対岸の森で陽の光から逃れてる人たちがいた。


「僕たちも森に行ってみない?」

「うん、いいヨ」


2人で浅瀬に近づくとそこは大きな石が10個ほど飛び飛びで対岸まで続いていて石の上は見た目、くるぶしくらいの深さだ。


「ヨークは足濡れても平気」

「うん、平気だヨ」



ライトは履いていたサンダルをマジックバックにしまって最初に石の上に足を下ろすと、

チャプンと音を立ててくるぶしの少し上まで水に浸る。

「冷たくて気持ち良いー」

そう言って振り向いてヨークを見る。

ヨークは脱いだサンダルを片手で持ってライトの様子を見ている。


ライトは再度、前を向いて2個、3個と前に石の上を進んでまたヨークの方を見るとヨークも最初の石の上に両足で立っていた。

素足で水の中に立っているヨークになぜかライトは目を奪われて見入ってしまう。


足元を見ていたヨークが視線を上げてライトを見て

「気持ちいいヨ」

と言うとライトはハッと我に返り先に進む。


5個目の石は水中よりも高い位置で2人で乗れるくらい大きかったのでライトはそこでヨークの到着を待って4個目まで来ていたヨークに手を貸して同じ石に乗せる。


「大丈夫そうだね」

ライトはヨークを見ながらそう言って先に行く。

6,7,8,9個目と順調に進んで行き振り返る。

ヨークも6,7個と進んできて8個目の石で足を下ろすとそこでバランスを崩し川の方へと倒れ込んでいく。

バタつくヨークの手をライトが掴んだ時には支えきれないほど体が傾いていて、


ドッボーン。


ヨークは背中から、ライトは頭から川に突っ込んでいた。



頭から川に突っ込んだライトは慌てたが伸ばした手がすぐに川底についたので立ち上がる。

横を見ると背中から川に倒れたヨークが足を取られた状態でやや溺れかけて手をバタバタさせていた。

水深は膝くらいなので慌てなければ溺れることはない。

ライトはヨークに近づき手を貸して引き起こす。


ヨークはげほっと1回水を吐き呼吸を整えながらライトを見る。

ライトも心配そうにヨークを見ていたが


プッ、

ぷっはっはっはぁと肩を震わせながらヨークが笑い出す。


ライトも一瞬間を開けてからつられるように腹を抱えてゲラゲラと笑い出す。


ヨークは口を押え笑いながらライトに近づき目じりの涙を手でぬぐいながら

「びっくりしたヨ、怖かったヨ、助けてくれてありがとう。ライト。」

とライトに抱き着く。

「ごめんね、濡れちゃったね」

ライトはヨークの背中を優しくポンポンと叩きながら言う。

「んーん、これくらいは平気、ただライトを道連れにしちゃったヨ」

そう言いながらヨークはちょっとエグエグ泣いている。


「今日は暑いから気持ちいいよ」

そう言ってライトは今度は背中から川に飛び込んで見せる。

それをみてヨークは今度はフフフっと嬉しそうに笑う。


そこで初めてヨークは自分の手が何も持っていないことに気づく。

「あ、サンダル!」

そう言いながら周囲を見回すと川下から子供が2人こっちに向かって川の中をザブザブと歩いてくる。


「ハイ、お姉ちゃん」

子供たちはそう言ってヨークのサンダルを渡してくれた。


「ありがとう」

ヨークはそう言ってサンダルを受け取る。


「渡ってる姿が危なっかしかったから見てたんだよ」

男の子が目の上に手でひさしを作って言う。

「男はああいう時、女を守ってあげなきゃ」

女の子が手を腰に当てて言う。


「そうだね、ごめん、ありがとう」

ライトはそう言ってマジックバックから熟れたチジャクの実を一つづつ渡す。


「わーい」「やったー」

子供たちはチジャクの実を受け取るとまたザブザブと川の中を戻って行った。


残された2人は顔を見合わせてまた笑ってしまうのだった。

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