第16話 仲直り
「今日は東門から出て釣りをしてみたい」
ライトはヨークに言う。
「わたし、釣りは得意じゃないヨ」
ヨークは目を合わせてくれない。
「昨日の森は3人組がいるかもしれないからね、今日は止めとこう」
「そうだね」
「どうかした?」
「どうもしないヨ」
ヨークの態度が明らかにおかしいのだがライトには理由がわからない。
「釣りでいいヨ、わたし、道案内はできるヨ、ライト、釣り具は持ってる?」
「持ってないから買い物していかないと、あと閲覧所で魚のクエスト見ていこう」
「わかったヨ」
ライトが閲覧所に向かうとヨークは後からついてくる。
「魚の種類はカワメ、イシナ、ユユ、ナナイロマスなんかが取れる、あと川の近くには鹿、狐、狸がいるって」
「ふ~ん」
ヨークは興味なさそうな返事だ。
「・・・今日はクエストは受けずに買い物して川に行こう」
ライトはちょっと考えてそう言って川に行くことを決めた。
ギルドを出たところでライトの手をヨークが掴む。
「どうかした?」
ライトの問いかけにヨークは応えずに俯いて固まっている。
ライトも黙ってヨークの反応を待っていた。
少しの沈黙の後でヨークが小さい声で言う。
「ごめんなさい」
「うん?」
「ライトに意地悪したくないヨ、でも、私、胸大きくないから」
ヨークが自分の胸を押さえながら顔を上げる。
「ええええ!」
ライトがびっくりする。
「サイファさんの胸、女の私でも見るヨ、ライトが見るの仕方がないヨ、
でもライトが見てると嫌な気持ちになってなんだか意地悪になっちゃって」
ヨークは半泣きの上目遣いでライトの目を覗き込んでくる。
「でも、ライトに嫌われたくないからちゃんと話しないと」
そこまで言うとライトに手を引っ張られてヨークはバランスを崩しそうになる。
ボフッとライトに受け止められてそのまま抱きしめられる。
「嫌いになんかならないよ。
昨日の夜、あんまり眠れなかった、ずっとヨークのことを考えてたから。
今日も早く目が覚めてヨークに早く会いたいから宿屋から急いで駆けてきちゃった」
ライトは優しくヨークの頭を撫でながらゆっくりとカミングアウトする。
「わたしもライトに早く会いたかったヨ」
ヨークもぎゅっと抱きしめ返す。
「朝から見せつけてくれるね~」
「ギルドの前で何やってるんだよ」
「家でやれ家で」
ヒューヒューとギルドに来た冒険者たちにからかわれた。
2人はハッと我に返りライトはヨークの手を引いてすごすごとその場を後にする。
その後はヨークの案内で道具やに行き釣り竿を買って東門に向かう。
「ヨーク、昼は何たべたい?」
ライトはヨークに尋ねる。
「ライトが食べたいものでいいヨ」
「じゃあ、ヨークのおすすめの屋台ある?」
「じゃあ、アレにしヨ」
ヨークはそう言ってライトの手を引いて行く。
カインズの町をヨークと手を繋いで歩く。
楽しくて心が高揚する。
夏の暑さで手に汗をかいているのさえ心地よく感じてしまう。
ヨークも駆け出す勢いでライトの手を強く握って引っ張る。
2人の距離が縮まるように強く引っ張る。
踊るように跳ねるように2人はカインズの町を駆け巡る。
「あった!ここだヨ」
ハァハァと息を切らしてヨークはとある屋台の前で立ち止まる。
そこは小麦粉で作った生地を薄く焼いて中にいろいろなものを巻き挟むクレプという食べ物の屋台だった。
クレプはたくさんの種類がありライトは目移りしてしまう。
「ヨークはどれにするの?」
参考までに聞いてみる。
「ケモモに白クリームがいいかなバナジに黒クリームも捨て難いヨ」
ヨークも迷っているようだ。
でも、どうやらヨークは甘いクレプにするようなのでライトは鹿肉と野菜の赤白ソースにした。
「これにするヨ」
そう言ってヨークはケモモ白クリームの絵を指さした。
「これとこれをください」
そう言って各々のクレプを指さす。
「ケモモと鹿肉だね、2つで銅貨9枚だよ」
恰幅の良い女性の店員さんが言う。
「はい」
そう言ってライトは財布から銅貨を9枚渡す。
ヨークがポケットからお金を取り出そうとするのを手の平を向けて制し、
ヨークがライトの目を見るとライトはウインクして笑顔を見せる。
ヨークはそのライトの手を両手で包むように抱きしめる。
「・・・はいよ」
店員さんの声にライトはバッと手を引っ込めて、クレプを受け取る。
ヨークもバツが悪そうに後ろを向く。
「あ、ありがとう」
ライトは恥ずかしそうにお礼を言ってクレプをバックにしまい歩きだそうとすると、ヨークにパッと左手を繋がれる。
ライトは一瞬、ヨークの顔を見てちょっと恥ずかしそうにしているヨークに笑顔を向けて歩き出す。
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