第15話 事情聴取

ライトがパラライズの魔法から回復するのはトマテ亭の夕食の時だった。


それまでの記憶も曖昧でずっと右手と右足が一緒に動いていたことに本人も気づいていない。


冒険者ギルドにも行ったがよく憶えていない。


ただ、薄っすらと

「明日、冒険者ギルドで待ってるヨ」

のヨークの声と赤い顔だけは憶えている。


そのことを思い出すと顔が自然とニヘッとしてしまうライトだった。



トマテ亭に帰ってきたらそこには夕食が待っていた。

ライトはハッと我に返り受付で鍵をもらい、昨日と同じカウンター席に座る。


今日のメニューは若鳥の香草焼きとパンのお皿にキノコのクリームスープだった。

どれも美味しくて昨日と同様にライトは幸せな時間を過ごすことができた。


「ありがとう!美味しかったです!」

ライトはお礼の言葉を残して2階の自分の部屋へと向かう。


トマテ亭の28番の部屋のベットの上でライトは今日の出来事を思い出していた。

いろんなことがあったがある点でどうしても顔がニヤけてしまう。

そうして中々寝付けないライトであった。




翌朝は多少寝不足気味だったが朝になる前からライトはそわそわして時が経つのを待っていた。

そして、昨日よりもちょっと早い時間に身支度を初めて部屋を出た。


今日は時間が早い為か受付も混んでなくすぐに鍵を返してカウンター席に向かう。

(ヨークも一緒にご飯食べれると良いのにな)

そんなことを考えながら朝食を食べる。


今日のパンは厚切りベーコンとチーズのパンと揚げ肉が挟んであるパンを選んだ。

どちらも美味しい。


それでもいつもより早いペースで食事を終え、そそくさと宿屋を後にする。

ライトは冒険者ギルドに向かう足取りがついついと早くなってしまう。

そして、冒険者ギルドに近づくにつれて胸がドキドキしてきた。

そうなるとライトはもう駆け足と変わらない速さで動いていた。


次の曲がり角を曲がると冒険者ギルドが見えてくる。


曲がり角を曲がる瞬間に目を凝らしてギルドの方を見る。



ギルドの前に目立つ白い髪を発見する。

ドキン!


大きく1回胸が弾んだきがした。

ライトはもう全力で駆けていた。


「ヨーク!」

手を振りながらついつい大きな声が出てしまう。


ビクっと驚いた様子でノースリーブの白いワンピースを着た白い髪の持ち主の少女がライトの方を見る。

「ライト」

小さい声でおずおずと手を少し振り返すも、すでに顔が少し赤い気がする。


「おはよう!ヨーク!」

ハァハァと息を切らしながら元気良くライトは言う。


「ライトのバカ、声が大きいヨ」

そう小さい声で言ってヨークはうつむいてしまう。


ライトはその言葉を聞いて周りを見回すとみんなが自分たちを見ているのに気が付く。


「ご、ごめん」

ライトがそう言うと。


「うんん、ちょっと恥ずかしかっただけだヨ」

そう言ってヨークはライトの右手を自分の両手でチョンと掴む。


「あ、うん、ソカ、キ・ヲツケル・・」

もう、しどろもどろのライト。


「うん、おねがい」

ヨークがそう言って上目遣いでライトの目を見てくる。


ライトはヨークの瞳に自分の姿が映っているのが見えて急に恥ずかしくなって、手を引っ込めてそっぽを向いてしまう。


ヨークもばつが悪そうに同じようにそっぽを向く。


一瞬の静寂が2人を包むがライトにはそれが長い時間に感じた。


先に動いたのはヨークでポケットから綺麗に折りたたまれた布をライトに差し出す。

「これありがとう」


「あ、うん」

ライトは布を受け取りマジックバックにしまう。


「行こ」

ヨークはそう言ってライトの左手を取り冒険者ギルドの中に入って行った。


ギルドの中は昨日よりもさらに閑散としていた。それもそのはず昨日よりも早い時間なのだから。


そんな中、手を繋いでギルド内を歩く2人はどうしてもギルド職員たちからは注目されてしまうのだが

ライトはそれどころではなかった。

ヨークに手を引かれその柔らかな感触と温かさを感じながら着いて行くことしかできない。


リータによくやられていたのを一瞬だけ思い出すが心持が全然違っていた。


ギルド職員たちはほっこりとニコニコしながら見守る目だ。


ギルド内にあるテーブルまでライトを引き連れてきたヨークがライトに言う。

「座って」


ライトは無言で頷いて言われるままに座る。


「昨日、家に帰ってお母さんに事情を説明したんだけど、助けてもらった上に貰いすぎだって怒られて、

今日は一日、ライトのクエストの手伝いと道案内をしなさいって言われたヨ」

「いいのに」

「それと、ちゃんとギルドに事情を説明しろって」

「事情?」

「3人組のこと」

「ああ」


ライトはもう、3人組のことはすっかり忘れていた。

そして思い出すとライトはにやけてしまう。

「3人組が居たからヨークと知り合えた」

そして口から気持ちがこぼれてしまった。


「・・・」

ボッっと音が出るかと思う勢いでヨークの顔が耳まで赤くなる。


「もう、知らない・・ヨ」

ヨークがそっぽを向く。


しばらく沈黙が続いたがヨークがハァと一息ついて、スッと立ち上がりライトの左手を握り受付の方へと向かって行く。


「すみません、ちょっとお話があるのですが」

受付嬢にヨークが話しかける。


「はい、お伺いいたします」

「昨日、北の森で採取をしていたのですが、3人組がここは俺たちの縄張りだから採取したものを置いていけと言われてさらにお金まで払えって言われたんですけど」


「・・・少々お待ちください」

受付嬢はそのまま席を立ち後ろの方に下がって行く。

しばらくすると戻って来てカウンターの前まで来て

「こちらにおこしください」

と右手を下に向けて付いてくるように指示した。


そのまま受付嬢に着いて行くとギルドの2階にある個室に案内されて2人はソファーに座るように言われる。


しばらくすると細身の眼鏡を掛けた銀髪の男性と手にボードを持ったサイファが入って来てテーブルを差し挟んで立ち自己紹介をする。

「副ギルド長のレオンと職員のサイファです」

そう言うと2人はソファーに腰を下ろす。


「申し訳ありませんがもう一度最初から事情を説明していただいてもよろしいでしょうか?」

レオンがヨークに言う。


「はい」

ヨークはそう返事をして昨日の森での出来事をレオンに説明し始めた。

サイファはそれをボードに挟んである紙に書き留めていく。


途中で扉を軽く叩く音がして案内してくれた受付嬢が4人分の飲み物を置いて退室していく。


時たまレオンの質問を差し挟みながら事情説明は進んでいく。


ヨークの説明が終わり、一呼吸置いてから

「事情はわかりました。ライトさんにもお話を伺ってよろしいですか?」

レオンはライトに話を振ってきた。


「はい」

ライトもヨークと同じように自分の見た事情を説明する。

取り分け3人組の特徴を聞かれたのでできうる限り話すとサイファの感じからすると特定できた様子だった。


「困った連中です。今回はライトさんのおかげで未遂に終わりましたが、ほかの被害者や余罪がありそうな輩です。冒険者に依頼を出して捕まえて事情聴取の上、罰を決めます。

その罪の度合いによって慰謝料と情報料をお二人にお支払いしますので、少々お時間をください」

レオンが言う。


「はい、よろしくお願いします」

そうヨークが言い頭を下げるのでライトも一緒に頭を下げる。


「頭を上げてください。冒険者や町の皆さんに気持ちよく仕事をしてもらうのもギルドの責任ですから」

レオンはそう言いライトを見つめ声を掛ける。


「ライトさんはG級なのに強力な魔法を使えるのですね」

レオンの興味は3人組からライトに移ったようだ。


「前に村に来た魔法使いに教えてもらった魔法です」

ライトはそのまま話す。


「その魔法で魔物や猛獣を倒したことはありますか?」

「鳥やウサギの狩猟で使うことはありますが戦闘で使ったことはないです。

師匠に冒険者になるまで人に見せてはいけないと言われていたので」

「なるほど、賢明な判断です。こちらもライトさんが冒険者として経験をある程度積むまでは口外はしません。

ライトさんはどの程度この町に滞在なさる予定ですか?」

「全然決めていませんが、しばらくは居ると思います。

それとサイファさん、とても美味しい宿屋さんを紹介してくれてありがとうございました。毎日の食事が幸せです」

サイファの方を見てライトが言う。


「それはよかったです、ライトさんのご期待に添えてなによりです」

サイファはボードから顔を上げ笑顔でライトに応える。(ぽよん)


ライトの視線がある一点に注がれてしまう。

それをヨークは目敏く見逃してくれない。


ちょっとヨークの空気が変わったことにライトは気づけない。


レオンが空気を読み話を切り上げる。

「それでは今日はこれで結構です。進展がありしだいご連絡さしあげます。

本日はご協力ありがとうございました」

レオンとサイファは立ち上がり2人に向かって頭を下げる。(ぽよん)


「こちらこそありがとうございました」

ヨークはそう言ってライトの左手をちょっときつく掴んで退室していく。


階段を降りながらヨークは半分だけ振り返りぼそりとつぶやくように言う

「ライトはああいうのが良いんだ」


ライトはここで初めてヨークが纏う空気が変わっていることに気が付くがなぜかはわからない。

「ああいうの?」


「ライトは鈍感だヨ」

ヨークはさらに小さい声で言うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る